Pramila Jayapal著「Use the Power You Have: A Brown Woman’s Guide to Politics and Political Change」

Use the Power You Have

Pramila Jayapal著「Use the Power You Have: A Brown Woman’s Guide to Politics and Political Change

シアトル地区選出の連邦下院議員プラミラ・ジャヤパルが去年出した本。彼女が定期的に地元で開くタウンホールミーティングになんどか出席したことがあり、めっちゃラディカルでカッコいい政治家だと思っていたけど、彼女が政治家になったのはわたしがシアトルに拠点を移す少し前だったので、それ以前のアクティビストとしての彼女を知らなかったのだけど、その話を読んで彼女の行動力のすごさの根源がよくわかった。

ジャヤパル議員はインド生まれの移民で、2001年の同時多発テロ後にアラブ人や南アジア人を対象にしたヘイトクライムや政府による理不尽な弾圧が起きたことに反発してアクティビストに。シアトルにたくさん住んでいるソマリア系難民やその他の移民たちを守るための団体を作り政治に関わっていく。移民排斥の風潮やブッシュ政権で起きたさまざまな問題に対抗するなか、自らの移民・マイノリティとしての経験や、トランスジェンダー・ノンバイナリーの子どもの母親としての経験、妊娠中絶を経験した女性としての経験を通して多くの人たちとつながっていき、州上院議員、連邦下院議員になった。

連邦下院議員としてのジャヤパルは、議員としての特権を使って連邦刑務所を視察して国境で子どもたちと隔離された移民の親たちと面会してかれらの話を議会で伝えたり、メキシコから米国に入国する国境の施設で故郷での暴力から逃れて難民申請する中南米人たちに立ち会ったりする。メキシコ側で難民支援をしている人たちと協力して、難民申請が認められる条件の整っていると判断された、選びぬかれた5人の人たちが国境の係官に申請するのに立ち会い、法的な正当性なく門前払いにしようとする係官に反論するジャヤパル。「認められないって言ってるだろ、てかお前誰だよ」と言う係官に、「わたし連邦下院議員ですけど」と身分証明書を差し出すジャヤパル議員。水戸黄門かよ!でもとにかくカッコいい。ちなみにわたしの仕事に関係する話だと、「性的人身取引を止めるため」という口実でセックスワーカーが宣伝のために使っている掲示板やSNSを規制する法案が2018年に可決されたとき、ジャヤパル議員は数少ない反対票を投じた一人だった。ほかにも反対する議員はいたけど、そのほとんどは単なる強硬なリバタリアンか、IT企業から支援を受けている業界の代弁者でしかないのに対して、ジャヤパル議員はちゃんとセックスワーカーたちの声を聞いて反対の立場を取った。てか当時の彼女の地元スタッフに元セックスワーカーがいて、セックスワーカーの声が届きやすかったというのもあるけど。

ジャヤパル議員がすごいのは、アクティビストとしての経験と、議員としての立場が、うまく重なり合っていること。「内側から制度を変える」と言っていたのに制度に取り込まれる人も多いなか、彼女は制度の外にいるアクティビスト(たとえば難民支援をしているメキシコの団体)と、政治の内側にいる彼女のような政治家が協力することが、弱い立場に置かれた人たちを守るためには必要だということを分かっていて、日々実践している。政治に少しだけ期待をもたせてくれる本。

性的指向と性自認による差別を禁止する法案の審議でジャヤパル議員は、自分の子どもがノンバイナリーとしてカミングアウトしたことを語り、どうしてこの法案を可決するべきか涙を流して熱弁した。彼女の本によると、もともと自分の子ども(当時22歳)について話すつもりはなかったのだけれど、共和党員らによる反対演説を聞いているうちに、どうしてこの法案が自分個人にとって重要なのか話すべきだと思い、子どもにメールで相談して話すことを決めた。動画でもその場で書いた手書きのメモを手に持ってる。

また、本でも触れられていたけど、2019年のシアトル市議選でアマゾンが自社に友好的な候補を全選挙区に擁立し、一社でほかのすべての候補の資金を超えるだけの政治資金を打ち込んで市議会の乗っ取りを狙ったとき、それを阻止するために動いたのもジャヤパル議員だった。彼女が声を上げたことで、バーニー・サンダースやエリザベス・ウォレンら全国区の政治家たちが拡散して、反アマゾン側候補への支援が全国から届いた。もしアマゾン勢が市議会を乗っ取ってたら、去年以来の警察改革はほとんど通らなかったはず。