Greg Epstein著「Tech Agnostic: How Technology Became the World’s Most Powerful Religion, and Why It Desperately Needs a Reformation」

Tech Agnostic

Greg Epstein著「Tech Agnostic: How Technology Became the World’s Most Powerful Religion, and Why It Desperately Needs a Reformation

ハーヴァード大学とマサチューセッツ工科大学でヒューマニスト・チャプレンを務めた著者が、世界で最も強力な宗教となったテック(テクノロジー)の教義や思想を明らかにし宗教改革を提唱する本。

そもそもヒューマニスト・チャプレンってなんぞやって思うかもなのでそこから説明すると、チャプレンというのは病院や学校など宗教施設以外のところで患者や学生たちの宗教的サポートを行う聖職者のこと。私立大学であるハーヴァードやMITには伝統的にキリスト教のチャプレンが在籍してきたが、近年それがほかのさまざまな主要な宗教に拡大してきたなかで、ヒューマニズム、すなわち無神論者であるかどうかはともかく、特定の信仰に基づかずに人間を中心としてより良い生き方を考える人たちをサポートするヒューマニスト・チャプレンも採用されたという経緯。ちなみに、ハーヴァードやMITほどの大学ならそれなりに高給取りなんだろうと思いきや、それだけでは生活できないくらい給料が低く、活動資金もチャプレン自身が寄付を集めて来なくてはいけないらしく、既存の宗教組織にスポンサーしてもらえないヒューマニストには辛い立場。

テクノロジーという言葉は車輪の発明以降の人類のありとあらゆる技術を含んだ言葉だが、いったん生活に馴染むとそれらはテクノロジーとは意識されない。それに対し著者がテックと呼ぶのは、テクノロジーのなかでもわたしたちの価値観や人生観に大きな影響を与えており、大きな社会的変動を起こしつつあるものの、それがどういう未来を導くのかはっきりせず多くの人の不安を呼んでいるもの。著者は、現代はローマ帝国がそれまで弾圧の対象だったキリスト教を国教に定めた4世紀以来の大きな宗教的転換期にあるとして、テックの神学、教義、信仰形態、倫理などを明らかにする。

ベンチャーキャピタルによる投機的な資本主義、白人やアジア人男性ばかり優遇されている現状を無視したメリトクラシー信仰、民主的プロセスの軽視と技術解決主義などシリコンバレーが体現する価値観、ニコラス・ネグロポンテやニック・ボストロムからマーク・アンドリーセンやイーロン・マスク、ピーター・ティールに繋がるテックの預言者たち、さらに効果的利他主義や長期主義、トランスヒューマニズムなどをまとめたいわゆるTESCREAL的な思想の数々まで、テックはその技術的な恩恵を大きく超えて現代の価値観や人生観に大きな影響を与えている。著者はそれらが伝統的な宗教やヒューマニズムが果たしてきた社会的役割を破壊しつつあることを冷静に読み解き、テック信仰に対するヒューマニズム的な宗教改革を訴える。