Franklin Foer著「The Last Politician: Inside Joe Biden’s White House and the Struggle for America’s Future」
The Atlantic誌の政治記者による、バイデン政権の最初の二年間についての本。
扱っている時期も内容も先に出版されているChris Whipple著「The Fight of His Life: Inside Joe Biden’s White House」と大部分被っているのだけれど、異なるジャーナリストの視点から書かれた記述を重ね合わせることでより立体感をもってバイデン政権内部の葛藤が感じられた。
本書がバイデンを「最後の政治家」と呼んでいるのは、かれが政治家という職業に誇りと責任を持ち政治に希望を抱く古いタイプのステーツマンの生き残りであるという評価に基づいている。最初の二年間、アフガニスタン撤退で失敗しロシアのウクライナ侵略は止められず、党内の左派と中道派の双方から攻撃され迷走したり、どう見ても妥協ができそうにない共和党との超党派協調に期待を寄せては裏切られたりとさんざんだったけれども、いっぽうで史上稀にみる大型法案をいくつも成立させ、抗コロナウイルスのワクチンを普及させインフレもなんとか制御、軍事・外交専門家からは不可能とされていたアフガニスタンからの撤退を実現、西側諸国をまとめあげてウクライナを支援して守り通しているなど功績も明らか。大勢の政策の専門家たちが集まり激しい議論を交わしたオバマ政権とは異なり、古くからの信頼するアドバイザーたちを集めて決断するバイデンの政権運営のスタイルとともに、ときに失言をかましつつも地に足がついた安心できるパーソナリティは現代アメリカでは稀有。
「The Fight of His Life」ではカマラ・ハリス副大統領がウクライナ支援で割とちゃんと仕事してたな!という点が驚きだったけれども、本書で一番おもしろかったのは、アフガニスタンからの撤退の際、歴代のアメリカ政府でアフガニスタンの占領と復興に関わりアフガニスタンの人たちと個人的な関係を築いてきた人たちがどのようにして旧知の現地の人たちのアフガニスタンからの退去を支援したかという話。アフガニスタン撤退はどうしても必要だったし、誰がやろうとしても撤退すればあれだけの大混乱は起きたであろうとは思うけれども、アメリカによる民主化に期待を寄せ裏切られる結果となったアフガニスタンの人たちへの配慮がバイデンには欠けていた。なかでもヒラリー・クリントンは、タリバンが政権復帰した場合に真っ先に殺されるおそれの高い女性たちをリストアップし、彼女たちが脱出できるようにアフガニスタンだけでなくジョージアやアルバニアなど各国の政府に直接かけあい支援を要請した、という話で、元国務長官とはいえいまは民間人なのによくそんなことできるなあと。