Michael Isikoff & Daniel Klaidman著「Find Me the Votes: A Hard-Charging Georgia Prosecutor, a Rogue President, and the Plot to Steal an American Election」

Find Me the Votes

Michael Isikoff & Daniel Klaidman著「Find Me the Votes: A Hard-Charging Georgia Prosecutor, a Rogue President, and the Plot to Steal an American Election

ドナルド・トランプ前大統領とその周囲が2020年の違法に選挙結果を覆そうとした数々の工作を組織犯罪として調査し立件したジョージア州フルトン郡のファニ・ウィリス検察官とその捜査についてのベテラン政治記者による本。

本はウィリス氏がフルトン郡検察官になるまでの経歴について書かれた第一部、トランプやその共犯者たちがジョージア州で行った数々の違法な工作について詳しく説明した第二部、そしてそれを受けてウィリス検察官がどのようにしてトランプ一味を起訴し一部の被疑者たちから司法取引を勝ち取ったかについて書かれた第三部からなる。第二部や第三部についてはこれまでの報道で既に知っていることが多いこともあり(とはいってもこうしてまとめてみるとトランプ一味は無茶苦茶が過ぎるし、全体としてみれば「トランプは実際には選挙で負けたことを知らなくて本気で不正を暴こうとしていただけなのでは?」という疑いを吹き飛ばすほどの淡々とした事実の積み重ねがあるわけだけど)、一番おもしろかったのは第一部。

第一部ではウィリス氏がどのようにして頭角を表してきたのか詳しく書かれているけれど、とにかく野心的なところがおもしろい。これは報道されていたので知っていたけれども、彼女が特に有名なのは組織犯罪法の「クリエイティヴな」使い方で、たとえばアトランタ公立学校で起きた組織的な生徒の成績改ざんスキャンダル(統一テストの点数があまりに低いと学校が予算を失うから実施された)では教師やその他の教育関係者たちを組織犯罪法で締め上げ、またストリートギャングに対する別の捜査では地元の有名ラッパー、ヤング・サグらが組織犯罪に関わっていたとして逮捕し、かれが書いたリリックまでもを証拠として扱った。自分を副検察官として取り立て育ててくれた上司がセクハラスキャンダルで窮地に追い込まれると検察官選挙に立候補してかれの地位を狙うあたりも冷酷無慈悲で、地方政治家時代のバラック・オバマを彷彿とさせる。

彼女が選挙に出た2020年、アトランタでもブラック・ライヴズ・マター運動が激しくなるなか、市内のファストフード店のドライブスルーに車を停めたまま眠ってしまった黒人男性レイシャード・ブルックス氏が駆けつけた警察官に殺害される事件が起きたが、黒人女性であるウィリス氏は秩序回復を訴え警察官組合からの支持を取り付ける。南部ラップの帝王と呼ばれるラッパーT.I.が彼女に面会し、警察官組合からの推薦を拒否すればその数倍もの献金を集めるとオファーされるも断るなど、黒人女性で民主党員でありながらBLM運動から距離を置き警察を擁護する立場。同じ時期シアトル市警察署長だった黒人女性のカーメン・ベスト氏と同じくわたし的には苦手なタイプの人だけど、民主党の支持層である教師や黒人社会の人気者に対しても断固として立ち向かう姿勢を示してきたことは、トランプ一味に対する責任追及が政治的意図に基づくものではないことを明確にしている。

最近、ウィリス氏はトランプらによる組織犯罪について追求している検察チームのリーダーと個人的な関係にあることを隠していた、身内びいきで不適切だ、として一部から批判を浴びているけれど、この本を読んでわかるのは、彼女が有能な検察官をチームに加えるのにとても苦労したということ。トランプやその支持者たちは、検察官はもちろん裁判官やそのスタッフ、選挙運営関係者、その他さまざまな、ただ真面目に仕事をしているだけの人たちの家族や住所を調べ上げネットに晒し、脅迫や嫌がらせの対象としてきたので、好き好んでそれに関わろうとする検察官は少ない。ウィリス氏と個人的な関係にある検察官は経験不足であり本来ならそうした地位にはついていなかったはずだ、という話もあるのだけれど、この本を読むとそういう事情もあるので仕方がないのかもなあと思った。