Craig McNamara著「Because Our Fathers Lied: A Memoir of Truth and Family, from Vietnam to Today」

Because Our Fathers Lied

Craig McNamara著「Because Our Fathers Lied: A Memoir of Truth and Family, from Vietnam to Today

ケネディ・ジョンソン両政権でヴェトナム戦争を激化させたロバート・マクナマラ国防長官の息子クレイグによる、父との関係を主題とした回顧録。タイトルは「ジャングル・ブック」で有名なイギリス人作家・詩人のラドヤード・キップリングが書いた第一次世界大戦についての詩からの引用で、父親世代による嘘によって戦争に送られ殺された息子世代の無念と、政権の中心で誰よりもその嘘をついていた実の父親ロバートとついに打ち解けられなかった著者の無念が重ねられている。

国民に嘘をついて、自分と同世代の多くの同胞たちと、それよりはるかに多いヴェトナムの老若男女の命を奪った人物が「自分の父親」である、という事実が、息子である著者をどれだけ苦しめたのか、わたしには想像できない。けれどもこの本を読んでみると、ヴェトナム戦争については何の説明もしてくれない父親に失望していた著者が、それ以外の面ではさんざん親の権力と財力に寄りかかっていて、しかもそれを赤裸々に書いているので、正直なのか無自覚なのかちょっと判断がつかないくらい。著者はエリート寄宿学校で落ちこぼれ同然の成績で生活態度も悪かったのに無事卒業させてもらい、さらにスタンフォード大学に進学するのだけれど、どう考えても「父親が元フォード自動車社長で、現国防長官」であることが理由としか思えない。クラスメイトの影響で反ヴェトナム戦争デモに参加するだけでなく、いつの間にか暴動に参加して店舗のガラスを割ったりするけどお咎めもなし。休暇には登山やスキーを楽しむほど元気なのになぜか「医学的理由」により徴兵を逃れ、なにを思ったか大学をやめてメキシコからチリまでヒッチハイクの旅に出る。金持ち白人男性って自由だな!

中南米旅行に出た時期、当時すでに父ロバートは国防長官を辞めて世界銀行総裁になっていたけれど、アメリカ軍はその途中のいくつかの国の内戦に介入していて、親米的な独裁政権を守り左翼に対する政府テロを支援していたのだけれど、著者はそれも一切知らなかった。各国を巡ったあと、小学生のころ学校の課題で発表させられたというだけの理由で憧れていたチリにたどり着くと、当時はたまたま選挙によってサルバドール・アジェンデ大統領による左派政権が誕生していた。アジェンデに招かれて首都サンティアゴで演説したキューバのフィデル・カストロに魅了され大ファンになるけれど、そのカストロと衝突して第三次世界大戦を起こしかけた(キューバ危機)のは父ロバートだった。さらにイースター島に渡り、母親から送られてくるアメリカのタバコやその他の贅沢品を売って事業をはじめたり、既婚者の女性と将来を誓い合ったりしたあげく、その女性が事故で大怪我をし、さらにアメリカの支援を受けたアウグスト・ピノチェト陸軍大将がクーデターを起こしアジェンデを殺害すると、「やっぱチリ移住やーめた」とアメリカに帰国。自分は農業をやるんだ!と決めて(親のお金で)大学に入り直し(親のお金で)農場を買い取る。

父ロバートはヴェトナム戦争が終わってからも長年そのことについては語らず、1990年代になってようやく出した回顧録でも「間違いがあった」程度の内容で家族を戦争で失った人たちからは批判されたけれども、息子に対しても国防長官時代の話はしてくれなかった。その一方で元フォード自動車社長という経歴からか、出資した農場経営に対してはデータを出せとうるさかったり、著者の農場で取れたクルミを周囲に配ったりと、普通に家族としての愛情はあった様子。著者は、息子である自分も父親もヴェトナム戦争という「語れない事象」に囚われ、精神的に苦しんでいたと感じているようで、それについて語ることができれば、お互い少し楽になると思っていた様子。それはそうなのかもしれないけど、この息子の経歴を見たら「センシティヴな話はできない、信用できない」と思われても仕方がないかなあとも思う。現にこんな本出してるし。