Zoë Bossiere著「Cactus Country: A Boyhood Memoir」
アリゾナ州ツーソンの砂漠の中にあるトレーラーパークで女の子として育てられた著者が、髪を短く切りほかの男の子たちに混ざって遊んだ幼少期から、ライターとして目覚めトランスジェンダーコミュニティに出会いジェンダーフルイドのアイデンティティを獲得するまでを書いた自叙伝。
砂漠のトレーラーパークで貧しい生活をする一家の生活は厳しく、しかしだからこそ著者が男の子として活発に活動する隙間も。ところがさまざまな階層の子どもが通う学校では著者が男の子なのか女の子なのかたびたび騒動となり、男の子のトイレを使ったことが問題視されるなど。そして第二次性徴の訪れとともに、髪型や服装をどう工夫しても女の子として扱われるようになり困惑したり、トレーラーパークから脱出しなくちゃ駄目だ、とライターとして勉強するために大学に進学、さらに遠くに移住するも、離れても離れてもライターとして自分と向き合うとそこには砂漠の中で男の子として過ごした経験が色濃く残っていた。
クィアコミュニティと出会い仲間を見つけるも女性として欲望されることに絶望し、トランスジェンダー・コミュニティに出会って喜んだけどやっぱり今ひとつ溶け込めない。どちらのジェンダーになりたいというのではなく、男性的な部分も女性的な部分も自分だし、自分のなかでも長時間をかけてそれは揺れ動いている、という感覚が丁寧に描かれていて、著者のアイデンティティはこれなんだ、という安定した結論を読者に与えようとはしない。自叙伝的なエッセイを書いてみたら分かると思うのだけど、結論を出さないで文章をまとめるのは結構難しくて、本書はそれをうまく成功させている。ライターになるべくしてなった人だと思った。