Susie Alegre著「Human Rights, Robot Wrongs: A Manifesto for Humanity in the Age of AI」

Human Rights, Robot Wrongs

Susie Alegre著「Human Rights, Robot Wrongs: A Manifesto for Humanity in the Age of AI

国際人権法を専門とする弁護士が、人工知能(AI)の普及によって起こる人権問題について論じる本。

AIと人権についてはすでに多数の書籍が出ており、もうお腹いっぱい感もあるのだけれど、本書は著者がかねてから世界各地でAI以前の人権問題に関わり、世界人権憲章や人権に関する国際法に基づいた議論ができるという点が特徴的。自律的なAI兵器の戦場への投入で戦争犯罪の責任はどうなるのか、合法的に人々のあらゆる欲望を満たしてくれると称するセックスロボットが生身の人間、とくに女性や子どもの身体に対する尊厳に与える影響は、ケア労働者がロボットに置き換わることによる社会的な影響は、など、さまざまなトピックを論じていく。コンピュータやデータセンターの設計・運営に不可欠な鉱物を採掘する労働者の権利や気候変動への影響、生成的AIと著作権や文化の関係などについても触れ、人権および人権が守ろうとしている人間の尊厳を守るためにはAIの採用を抑える必要がある場面もあることを指摘する。

著者が言うとおり、多くの場合問題となるのは技術そのものではなく技術がどのような社会でどのように採用されるかだ。たとえばケア労働に関して言えば、患者の体を持ち上げるなど肉体的な負担となる労働をロボットに任せるかわりに人間は感情的なケアに集中する、という分業ができるなら良いが、大多数のケースにおいてロボットは経費削減のために投入され、物理的なケアは受けられるけれど人間との交流が閉ざされる多くの患者を生み出すおそれが大きい。短い本ながらAI以前からある人権問題とAIによって生まれる新たな人権問題の継続性と新規性について丁寧に扱った良書。