Shahnaz Habib著「Airplane Mode: An Irreverent History of Travel」

Airplane Mode

Shahnaz Habib著「Airplane Mode: An Irreverent History of Travel

サブタイトルに「旅行の歴史」という言葉が含まれているけれど、旅行、とくに観光旅行というものがどのようにして歴史的に成り立ったのか、どういう社会的・制度的な制約があるのか、という話に触れつつ、全体としてはインドからアメリカに移住した著者によるエッセイ集的な本。

「第三世界の人たちは旅行はしない、するのは移住だ」という誰がどういう文脈で言ったかによっては問題になりそうな言葉があるように、観光旅行というものの成り立ちや現状には階級や人種・国籍などの要素が深く関係している。ヨーロッパ貴族の男性が通過儀礼として使用人を引き連れて長期に渡る旅行をした歴史から、植民地主義による世界各地への移住と「未開の」地や生物、文化への博学的興味、中産階級の誕生と旅行記やトラベルガイド本の発達、国内の領民を管理するために作られたパスポートが国境管理と国籍による「旅行しやすさ」の格差を生んでいることなどと、著者自身がインド人留学生から労働ビザを経てアメリカ人の配偶者を通して永住権、そして国籍を得た経緯などと並置。「本来なら現地で白人旅行者の関心を惹く観光資源として、そしてかれらが信用できない他者として距離を置くべき人間として存在していたはずの浅黒い肌の自分」が帰化アメリカ人として得たパスポートの力で旅行の主体となっていることに戸惑いつつ向き合う。

表紙やタイトルと異なりあんまり飛行機の話は出てこないし、旅行の歴史という部分でも不十分だと思うけど(たとえばAlvin Hall著「Driving the Green Book: How Black Resistance Lit a Path Through Jim Crow and Beyond」やMia Bay著「Traveling Black: A Story of Race and Resistance」に書かれているような、黒人が南部や西部を旅行しようとして経験した困難やそれに対する抵抗の歴史などについては触れられていない)、エッセイ集だと思えば楽しめる。わたし的には一見うまいこと言っているようであんまりうまくない言葉遊びが目に余るところがあってちょっと白けるのだけれど、それは読者の好き嫌いによるかも。