Sabia Wade著「Birthing Liberation: How Reproductive Justice Can Set Us Free」

Birthing Liberation

Sabia Wade著「Birthing Liberation: How Reproductive Justice Can Set Us Free

出産をサポートするドゥーラとして活動する黒人女性の著者が自身の視座からリプロダクティヴ・ジャスティスを論じる本。本書は奴隷とされた黒人女性たちを使った人体実験によって始まった産婦人科の歴史を踏まえつつ、人種差別をはじめとする社会格差が現代の出産の現場にどのように影響しているかを指摘する。

序盤では、不必要に思える帝王切開を言い渡されて不信感を抱く出産間近の黒人女性、自身が出産時に医者に自身の声を聞いてもらえずに死にかけた経験からパニックを起こす母親、過去の警察とのやり取りなどから医者のような権威のある相手に物を言うことを恐れるパートナーの黒人男性、妊婦にできる限り寄り添いたいと思いつつ激務に晒され患者にとにかく書類に署名するよう押し付ける看護師、帝王切開をためらった結果患者を死なせてしまった経験から早めの帝王切開を迫り患者や家族の疑問に高圧的に接してしまう医師、といったある出産現場のシナリオを紹介し、それぞれの登場人物が置かれた社会階層上の地位や過去のトラウマの経験が絡み合った相互作用の結果として現実の医療格差が生み出されている様子を描写する。こうした問題を解決するには、医療現場の改善だけではなく社会階層の解消やトラウマへの手当てが必要となる。

本書では「白人を中心化しない」という理由で、「白人」(whites)と「非白人」(non-whites)ではなく「Black, Indigenous, and People of Color (BIPOC)」と「non-BIPOC」(いわゆる白人)というカテゴリを採用していて読みにくいんだけど、なぜか読者は主に白人が想定されているらしく、白人に向けた人種差別についてのダラダラした説明や、白人読者に対する訴えかけの文章が多いので、結果的に白人が中心化されているように思う。ラディカルなドゥーラを育成するプログラムを実施している著者の活動はおもしろいので、そちらについてもっと詳しく書かれた本を出して欲しい。