Theodore R. Burnes & Jamila M. Dawson著「Essential Clinical Care for Sex Workers: A Sex-Positive Handbook for Mental Health Practitioners」

Essential Clinical Care for Sex Workers

Theodore R. Burnes & Jamila M. Dawson著「Essential Clinical Care for Sex Workers: A Sex-Positive Handbook for Mental Health Practitioners

性労働に従事するクライアントにカウンセリングを提供するための心理カウンセラーに向けたガイドブック。

まあ基本は「性労働の経験は人によってさまざまだし、カウンセリングに来る理由もさまざま、偏見を持たずに個々のクライアントの話をちゃんと聞こう」というごくまっとうな話なんだけれども、とはいえ世間から偏見の目で見られていたり、そのために周囲から孤立していたり、また過去に偏見のあるカウンセラーに当たって酷い目にあった経験のあるクライアントも多いので、ただ個人として尊重しようというだけでは不十分な部分もある。そのあたりこの本はちゃんと扱っており、どのような臨床的立場からのカウンセリングであっても性労働者が置かれている社会的状況を知り、それを改善するための活動に参加すべきだ、と勧めている。

わたし的には、タイトルにある「セックス・ポジティヴ」という言葉や、本書で繰り返される「エロトフォビア」(もとは性恐怖症という意味だけれど、ここでは性規範に基づいた偏見といった意味で使われている)、あるいは「トラウマインフォームドケア」などの用語の使い方がやや雑なのが気になる。たとえば性労働をしているクライアントが話しやすいようにカウンセラーは自分がセックス・ポジティヴであることを普段からクライアントに示すべきだ、と書かれているけれど、「性労働」は労働であって「性」はその分野を示す言葉でしかないのでセックス・ポジティヴだと言われると引く人も多い。たぶん著者は性規範に基づいた偏見がないということを「セックス・ポジティヴ」と呼んでいるのだと思うけれども、気をつけて欲しい感じ。

まあ短い本だし初歩の初歩としては悪くないのでは。