Rina Raphael著「The Gospel of Wellness: Gyms, Gurus, Goop, and the False Promise of Self-Care」

The Gospel of Wellness

Rina Raphael著「The Gospel of Wellness: Gyms, Gurus, Goop, and the False Promise of Self-Care

ヨガやエクササイズからサプリメント、様々な新手のダイエットなどウェルネスを謳うトレンド(そしてそれを宣伝するグールーやインフルエンサー)をジャーナリストとして追いつつ個人的にもハマった遍歴を持つ著者が、ウェルネス産業の社会的な役割やその問題点について書いた本。

アメリカ社会においてウェルネス、そして自分自身のウェルネスのためのセルフケアを行うことが奨励されるようになって久しい。本書では序盤、コロナ危機初期に多忙を極める職場で働いていた(多くは女性の)看護師たちが上司に「セルフケアをしなさい」と言われたエピソードを紹介している。過酷な職場の状況を改善するでも、あるいは異常な重労働に見合った昇給をするでもなく、求められている労働を行えるように個人の責任でセルフケアしろ、そしてもっと働け、という要求の理不尽さが指摘される。同じころ、学校や公共機関が閉鎖されるなか、多くの女性は子どもや親世代のケアをするために職場を去ったが、彼女たち自身は誰からのケアも受けられず、自分でセルフケアを行わなければいけなかった。

ケアが必要だと自覚して医療に頼っても、Anushay Hossain著「The Pain Gap: How Sexism and Racism in Healthcare Kill Women」(邦訳が「『女の痛み』はなぜ無視されるのか?」として今月発売された)に書かれているように女性の苦しみの訴えは軽視されがちだし、そもそも多くの人は医者やカウンセラーに十分にかかる時間的・経済的余裕を持たない。そこに、エクササイズやサプリメントやダイエットによる解決を謳うウェルネス産業が入り込む。他人からの目線を気にして外見を整えろ、という社会的要請は以前からあったけれども、ソーシャルメディアではより身近な存在として登場するインフルエンサーたちが高価なフィットネスブランドやプログラムを売り込む。

本書の序盤ではこういった社会的な仕組みにより女性がウェルネス産業に救いを求めざるを得ない状況が描写されており、これは現代の「美の陰謀 女たちの見えない敵」か?と思ったのだけれど、途中から延々とオーガニック食品の是非について(オーガニックが体に良いというのは科学的根拠が少ない、など)論じられたり、「ナチュラル」を謳う化粧品やフィットネスプログラムの宣伝文句の科学的誤謬を批判する方向に。いや別にそれはそれでいいんだけど、もともとは「ウェルネス産業やインフルエンサーに騙さないように科学的リテラシーを強化してスマートな消費者になろう」って話ではなかったはず。

あるいはフィットネスと言いつつ見た目重視なフィットネスインフルエンサーに対してボディポジティヴなインフルエンサーも出てきて対抗してるよって言うんだけど、そのボディポジティヴなインフルエンサーもまた別の商品を売り込んでいたりして、そこを掘れば面白そうな議論ができそうなんだけど、軽く触れるだけ。この本、序盤はけっこう期待しただけに、なんだか残念な終わり方をしてしまった気がする。