Reshma Saujani著「Pay Up: The Future of Women and Work (and Why It’s Different Than You Think)」

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Reshma Saujani著「Pay Up: The Future of Women and Work (and Why It’s Different Than You Think)

シェリル・サンドバーグ「リーン・イン」に代表される、女性がキャリアと私生活の充実を両立させるための(多くの女性にとっては非現実的な)アドバイスを批判する一冊。というだけならサンドバーグの本がベストセラーになって以来(いや、それ以前からも)いくらでもあったのだけれど、この本は実際にサンドバーグと一緒にそうしたアドバイスを繰り返していた当人がその限界に突き当たり、自分の過去の言動を反省して書いた本という点が特異。著者はコンピュータサイエンスやテクノロジーの業界により多くの女性たちを送り込むための活動をしていたインド系アメリカ人の女性で、ファイナンスや政治の分野で働いていた経験もある人。

著者は過去の著書において、キャリアと家庭は両立する、どちらも全力で掴み取れ、といった意見を主張していたけれども、実際に妊娠・出産すると、非協力的な夫や子育てをしている親への配慮が足りない職場のあり方に直面。それでも十分な収入はあるので家事や育児を手伝ってくれる人を雇うことはできるもの、それらをアレンジするのも簡単ではなく、そもそもそういった経済的な余裕のない大多数の女性にとっては家事や育児の負担はキャリアに大きく響く。さらにそこに襲いかかったのが2020年のコロナ危機で、さまざまな社会サービスや学校が閉鎖されたことによって家庭内のケア労働を担当する女性たちは追い詰められ、多くの女性が職場を離れることになった。リモートワークができた人も、家事や育児の負担が重くなるなか、家庭と仕事が一体化してどちらからも逃げられない状況に。さまざまな調査によっても、男性にとってのリモートワークと女性にとってのリモートワークの経験はまったく異なる。

と同時に、パンデミックによって「リーン・イン」的なアドバイスの限界が完璧なまでに露呈したことは、女性の労働をめぐる環境を変えるチャンスだと著者は主張する。そのためには職場の仕組みや家庭のあり方も変えていく必要があり、また母親を支えるための政策も必要。とくに政策転換を求めるために著者は「母親のためのマーシャル・プラン」という団体を設立し、家族をケアするための休職手当・金銭的負担の少ない保育施設やサービスの拡充、税制改革などを求める運動を展開したが、バイデン大統領が進める経済回復策のなかでこれらの政策はまっさきに共和党と民主党の妥協によって破棄されてしまった。とはいえ、現在アメリカ経済で深刻な問題となっている「労働者不足」の問題に、家庭内ケア労働を担当するために労働市場を離れた多くの女性の存在が響いているのも確か。「リーン・イン」的なものをコンパクトに更新する本。