Geraldine DeRuiter著「If You Can’t Take the Heat: Tales of Food, Feminism, and Fury」

If You Can't Take the Heat

Geraldine DeRuiter著「If You Can’t Take the Heat: Tales of Food, Feminism, and Fury

フードジャーナリリズムの賞を受賞したブロガーによる、フェミニズムと食をテーマとしたエッセイ集。

表紙にはネイルを赤く塗った手がシナモンロールを握りつぶす写真が掲載されているけれど、これは料理界のアカデミー賞と称されるジェームズ・ビアード賞のジャーナリズム賞を受賞したブログ記事が理由。2017年末、アメリカ版「料理の鉄人」でイタリアンの鉄人を務め自分のテレビ番組も持つ有名シェフのマリオ・バターリが部下らに対するセクハラや性暴力が告発され、謝罪したのだけれど、その謝罪の最後になぜかピザ生地を使ったシナモンロールのレシピが。MeToo運動が広がるなか、バターリはセクハラや性暴力を告発された最も重要な人物でもないし、告発された内容も最も深刻というわけではないのだけれど、謝罪文にレシピを掲載したのはおそらくかれ一人。それを見た著者はバターリや権力を濫用するほかの男性たちへの怒りをピザ生地にぶつけつつもバターリのレシピに忠実にシナモンロールを作りレポートする、という記事を書き、注目を集めた。ロールの一つが焼いているうちに中央からせり出してきたのを「バターリのシナモンロール、勃起しやがった!」とか爆笑ものだけれど(そう言われると写真がそうとしか見えない)、性暴力と謝罪文にレシピを載せる無神経さに対する怒りは本物。

この例からも分かるとおり、著者のエッセイにはユーモアと性差別や性暴力に対する鋭い批判がうまい具合に融合されていて、ブログが人気を呼ぶのが分かる。バターリの件をめぐって極右インフルエンサーによる攻撃の対象となり多数の性的な脅迫を受けた話、女性が男性に対して魅力的な体型を維持するための自己制御を強いられるなか食生活が自己責任の根拠とされたり、家庭内では料理が女性の役割なのに一流料理人とされる人のほとんどが男性であること、レストランの支払いは男性がするものという考えから高級レストランで女性に値段が書かれていないメニューを渡されたり支払いをしようとしても拒否されることなど、幅広いトピックを取り上げつつ、著者のレッドロブスター(シーフードレストラン)への偏愛や、食べ放題でもとを取ろうとする家族の話、高級創作レストランで出されたふざけた料理(?)の話など。個人的な話もおもしろい。