Rachel Shteir著「Betty Friedan: Magnificent Disrupter」

Betty Friedan

Rachel Shteir著「Betty Friedan: Magnificent Disrupter

1963年に出版した「The Feminine Mystique」で一斉を風靡しアメリカ最大のフェミニスト団体・全米女性機構の設立の中心人物だった第二波フェミニズムの代表的人物であるベティ・フリーダンが2006年に亡くなっていらい初めての伝記。

わたしがフェミニズムに興味をもった頃にはとっくに過去の人で、彼女については教科書で「こういう人がいた」と学んだだけで正直彼女の本を読んだ記憶すらないので、彼女の生い立ちから労働記者としての活躍、不幸な結婚から第二波フェミニズムに与えた大きな影響まで、ちょっと距離を置いてそこそこ興味深く読んだ。よく知られている「ラヴェンダー・メナス」という赤狩りのレトリックを借りたレズビアン排斥の主張から、黒人女性政治家の選挙を応援しているはずがステレオタイプ丸出しの人種差別的な宣伝をしてしまったことなど、のちに何度も謝るハメになったやらかしの数々についても書かれていて、「いまならキャンセルされていた」という著者の指摘はごもっとも。まあいまの時代に生まれていたらあそこまで変なことは言ってないと思うけど。

彼女より後に出てきたラディカル・フェミニズムと対立し、「性の政治はフェミニズムとは無関係」と言うのだけれど、その「性の政治」にはラディカル・フェミニズムが問題として名指ししたドメスティック・バイオレンスや性暴力が含まれていて、フリーダンは女性に対する性的暴行が明らかになった男性アーティストについて「かれの才能は貴重でありこんなつまらない訴えは取るに足らない」とまで言っていた、というのは知らなかった。いやいやさすがにそれはないでしょ。いちおう、著者はフリーダンに好意的な立場で、彼女のやらかしをあれこれ批判的に書きながら、彼女がそう言ってしまった当時の状況についても説明するのだけど、ちょっとそれだけでは説明しきれない気がする。

いっぽう著者が説明しようともしないのは、もともと世俗的なユダヤ人だったフリーダンが年を重ねるにつれ重視するようになった親イスラエル的な姿勢について。女性の権利をめぐる国際的な会議では途上国の女性たちによって人種差別や植民地主義とならびイスラエル国家によるパレスチナ占拠やその根拠となるシオニズムに対する批判が立ち上がったが、フリーダンはそれらを反ユダヤ主義として一蹴。著者も彼女の考えに同調しているというか当たり前にその通りだと思っている様子で(そもそもこの本自体、Jewish Livesというユダヤ人の伝記シリーズの一冊として出版されている)、シオニズムに関するフリーダンの考えは詳しく説明されない。シオニズムという言葉にはイスラエルの国家イデオロギーとしての国家シオニズムのほかに、より多文化的・多元主義的なパレスチナを構想するシオニズムもある(あった)はずなのだけれど、この本だけではフリーダンがどのようなシオニズムを主張していたのか分からない。デフォルトで国家シオニズム支持という理解でいいの?

まあ読んでみて、グロリア・スタイネムに対する生涯に渡る対抗心とかめっちゃおもしろいし、こういう全方面にパワフルな人が過去にいてくれたおかげで女性の地位が向上したということはあるわけですごいなあと思うと同時に、同時代にいたらめっちゃウザかっただろうな、とも思う。ほんの20年近く前までは生きて精力的に活動していた人だけど、ふつーに過去の偉人だった。