Questlove著「Hip-Hop Is History」
最近自叙伝「The Upcycled Self: A Memoir on the Art of Becoming Who We Are」を出したBlack Thoughtとともに伝説的ヒップホップバンドThe Rootsを率いたミュージシャン・プロデューサで、昨年末に放送されたグラミー賞による「ヒップホップ50年史へのトリビュート」のプロデュースも行った著者による、ヒップホップの歴史についての本。トリビュートで十分に扱えなかったヒップホップ50年の歴史を著者の視点から掘り下げる内容。
DJでプロデューサでもあることもあり、著者は新しい音楽に出会ったらノリで楽しむよりはじっくり座って歌詞を聴き込みその作品世界に浸るタイプ。Nasの「Illmatic」の衝撃やEminemの登場など音楽的に大きな事件が起きたときに著者がどう感じたかという話など、ヒップホップ史というよりは著者によるヒップホップの思い出史といった感じで興味深い。音楽誌が発売当時評価していなかったアルバムを後づけで名盤扱いしているのを揶揄しているけど、著者自信、当時はこのアルバムのすごさが分からなかったがのちにようやく分かった、とかで評価を替えていたりもするけど、それもおもしろい。ヒップホップの時代をクラック・コカイン期、マリファナ期、エクスタシー期などそれぞれの時代に流行ったドラッグで区切っているのはよく分からないけど、まあなんとなく納得してしまう。
最後にエピローグとして、2073年にヒップホップ100周年を記念して出版される本書の増強版「Hip-Hop is STILL History」に向けて書かれたあとがきがあるのだけど、センサーが勝手にその時の気分にあった曲を選んで再生してくれるとかAIで過去の異なる時代のラッパーを混ぜ合わせて合作してもらえるとか、いまから50年後なのになんか5年後には実現しそうなことが多く書かれていて、あとはAndré 3000とヒップホップデュオOutkastを組んでいるBig Boiがジョージア州知事になっているとか大喜利みたいな話。未来予測のセンスには疑問が浮かぶのだけれど、102歳になってもまだ現役でヒップホップのご意見番でいるつもりなのは頼もしい。でも2073年の著者は2123年の150周年版「Hip-Hop is STILL, STILL History」はもう書きたくない、とのことだけど。