Nick Greene著「How to Watch Basketball Like a Genius: What Game Designers, Economists, Ballet Choreographers, and Theoretical Astrophysicists Reveal About the Greatest Game on Earth」

How to Watch Basketball Like a Genius

Nick Greene著「How to Watch Basketball Like a Genius: What Game Designers, Economists, Ballet Choreographers, and Theoretical Astrophysicists Reveal About the Greatest Game on Earth

スポーツニュースやその他のさまざまな部門で働いてきたバスケットボール大好きな記者が、これまで出会ってきたさまざまなジャンルのプロたちとバスケットボールについて話し、その魅力を普通のスポーツファンとは異なる視点から紹介しようとする2021年の本。

サブタイトルに書かれているように、本書では著者が「ゲームデザイナー、経済学者、バレエ振付師、理論天体物理学者」らにインタビューし、バスケットボールのルールやプレイの歴史を語りつつ、ほかのさまざまな分野の視点からその魅力を分析する。ゲーム製作者の立場からバスケットボールのルールを分析したり、バレエの振付師がダンクシュートの美しさを語るなど、いくつかハマっていると感じる話はあるのだけれど、かれら他分野の専門家の意見というよりは著者が無理やり取材で知ることになったほかの分野の話に落とし込んでいるような気はする。でもまあ、ほかにも、自分だけ活躍して目立ちたい選手と仲間へのアシストをする選手のそれぞれに対するファンの道徳的な評価や、統計学的分析の影響でスリーポイントシュートが増えていることについての考察、ほかの技術はどんどん向上しているのに周囲の影響を受けないはずのフリースローの成功率が昔と変わらないのはなぜか、ルーブ・ゴールドバーグ・マシン(いわゆる「ピタゴラ装置」)の設計と攻撃システムの類似、などおもしろい話題がたくさん。

バスケットボールについて、というか本書の議論の大半を占めるプロバスケリーグNBAについてほとんど知らないのだけど、バスケットボールのルールがどのように発達してきたか、という話が特におもしろかった。アメリカの四大メジャースポーツの中では唯一、発祥がはっきりしている(特定の個人が考案した)バスケットボールの最初のルールでは、選手同士の衝突を防ぐためボールを持った選手は動くことができずパスかシュートしなければいけなかったけれども、「ボールを一旦落として所有権を失い、また拾っているだけ」というハッキングによりドリブルをするチームが現れ、それが「おもしろいじゃん!」と公式に認められたとか、背が高い選手がゴールの下で待機してパスを待つのを防ぐための制限区域の設定、勝っているチームが攻撃せずに時間稼ぎをするのを防ぐために24秒以内にシュートを打たないといけないという規則など、ゲームをよりおもしろくするためにさまざまなルールが発達してきた歴史はとても興味深い。

と同時に、「どこまでルールが変更されたらそれはもはやバスケットボールとは呼べなくなるのか」という哲学的な問いと、それが導き出す「バスケットボールの本質とはすなわち何か?」というさらなる問いも考えさせられる。このあたりは最近、トランス女性の女子スポーツ参加をめぐって「フェアかどうか」という点ばかり騒がれていて、「そのスポーツの本質とは何か?その本質を守るためにはどうルールを設定すべきか?」という議論が忘れられがちだと感じているので、オフトピックだけれど参考になった。