Moya Bailey著「Misogynoir Transformed: Black Women’s Digital Resistance」

Misogynoir Transformed

Moya Bailey著「Misogynoir Transformed: Black Women’s Digital Resistance

おもに黒人女性が経験する、黒人差別とミソジニーが交錯した抑圧をミソジノワール(misogynoir)と名付けた黒人フェミニストで、かつて影響力のあったCrunk Feminist Collectiveのメンバーだった人による本。タイトルの通り、単にミソジノワールの実例を列挙するだけでなく、そしてその対象を異性愛者・シスジェンダーの黒人「女性」だけに限ることもなく、黒人の女性やクィアやトランスジェンダーやノンバイナリーの人たちがどのようにしてデジタルメディアを使ってミソジノワールに対抗しそれを変革しているかを報告している。

ミソジノワールについての歴史的・社会的な説明が終わったあと、ジャネット・モックやラバーン・コックス、シィシィ・マクドナルドら黒人トランス女性たちがツイッターと現実社会において実行している対抗戦略を紹介する章、黒人クィア女性コミュニティ初のウェブシリーズ(クラウドファンディングなどで制作された連続ドラマ動画)を分析する章、そして2008年から2015年ころまで影響力のあったソーシャルメディアTumblrにおける黒人女性たちのコミュニティを記録に残す章が続く。

わたしにとって一番印象的だったのは、黒人クィアコミュニティのリアルな問題を題材として取り入れてコミュニティが試行錯誤する様子を説得力あるドラマとして構成したウェブシリーズについての部分。それはたとえばクィア女性コミュニティが内面化してしまった「有害な男性性」だったり、ドメスティックバイオレンスだったり、カウンセリングの可能性だったりする。現実社会において黒人クィア女性たちがコミュニティ内部で起きるドメスティックバイオレンスを警察に丸投げするのではなく(やりたくでもできない)被害者と加害者双方を支えてコミュニティを修復することを目指しているように、ドラマの中でもコミュニティのメンバーたちは戸惑い、迷い、独自の解決を模索していく。もちろん「これが正解です」と答えが提示されることもなく、またコミュニティの取り組みは不十分だったりリソース不足だったりして失敗もするのだけれど、そうしたリアルな状況を、コミュニティ自身がクラウドファンディングによって支えるメディアにおいて取り上げるというのは、ほんとうにすごい。それぞれのシリーズを是非観たいと思った。