Andre Henry著「All the White Friends I Couldn’t Keep: Hope—and Hard Pills to Swallow—About Fighting for Black Lives」

All the White Friends I Couldn't Keep

Andre Henry著「All the White Friends I Couldn’t Keep: Hope—and Hard Pills to Swallow—About Fighting for Black Lives

ジャマイカ移民の子としてアメリカで生まれ育った著者が、Black Lives Matter運動との出会いを通して自分が長年感じていた、しかし名付けることができなかった理不尽な状況への不満に気づき、レイシズムに反対する発言を続けるうちに多くの白人の友人や仲間を失った経緯について綴った本。

著者の一家はジャマイカ出身の黒人家庭だけれど、アメリカにおける反黒人レイシズムについてはあまり認識しておらず、著者が子どものころには独立記念日に家族揃って南北戦争の南軍を称えるモニュメントで開催されているお祭りに参加したりしていた(なんでアメリカ合衆国の独立記念日にその合衆国に反逆して内戦を起こした軍を称えるイベントが行われるのか論理的には支離滅裂だけれど、南部において米国への愛国心と南軍の称賛は両立している)。また一家は教会に通い白人たちと家族ぐるみの付き合いもしていた。著者はミュージシャンとして活動するとともに、神学を学んだ。

警察や自警団による多くの黒人たちの殺害に対抗してBLM運動が起きると、著者はその訴えに共感し、ソーシャルメディアで犠牲となった黒人たちを記憶するよう呼びかけたり、制度的なレイシズムに対する批判を載せるようになった。ところがかれと親しかった多くの白人たちはそれらの投稿に対して「なんでそんなに人種にこだわるのか、人種差別をなくすためには人種を意識するのをやめるべきだ」「自分はエチオピアを旅行したとき白人として酷い扱いを受けた、それに比べればアメリカの黒人は差別を受けているとは言えない」「警察に疑われるようなことをしなければ撃たれることはない、人種は関係ない」というように、人種差別の存在自体を否定するようなコメントが寄せられる。人種差別を無くすためにはそういう人たちとこそ対話をするべきだと感じた著者は具体的な根拠を提示するなどして議論しようとするけれども、どんな根拠を出しても何ら相手には響かない。それは黒人としてのかれの経験と存在そのものを否定することだ。

教会や神学関係の知り合いからは、レイシズムは神にとって大きな問題ではない、レイシズムについてうるさく言うことは魂の救済から遠ざかることになる、という反応も。それらを通して著者はかれらが人種差別について理解していないのではなく、理解することを拒むばかりか、人種差別についての訴えを黙らせようとしているのだ、と気付き、そしてかつて親しくしていた多くの白人たちを友人として失うことになる。と同時に、トランプ政権の誕生とともに露骨さを増していく反黒人レイシズムに絶望し、子どものころ訪れた経験のあるジャマイカへの移住を考えるようになる。

そういうなかかれが希望を取り戻すきっかけとなったのは、レベッカ・ソルニットの著作など、ラディカルな立ち位置から書かれた希望についての本、現世社会の不公平に立ち向かう反逆的な神学、そしてかれの父親の家系が属するマルーン(ジャマイカなどにおいて、独自の共同体を形成して自由を勝ち取った逃亡奴隷たちの集団)の歴史について学んだことだった。両親がジャマイカ出身であることからジャマイカ国籍が取得できることを知り、2020年の大統領選挙の際には恒久的にジャマイカに移住することを考えたけれども、アマード・アーベリー氏、ブリオナ・テイラー氏、ジョージ・フロイド氏らの相次ぐ殺害にたいしてBLM運動が再燃するとアメリカに帰国、運動に参加した。この本には、BLMに触発されたおおくの黒人たちのうちの一人である著者が、レイシズムについて発言することでどのような経験をし、それを振り切ってきたか記されている。