Mitch Friedman著「Conservation Confidential: A Wild Path to a Less Polarizing and More Effective Activism」

Conservation Confidential

Mitch Friedman著「Conservation Confidential: A Wild Path to a Less Polarizing and More Effective Activism

若いころラディカルな環境保護団体アース・ファーストの一員として士林伐採を阻止するために木の上に居座るなどの活動をし、その後より穏健な活動家として政府や農家、先住民部族と協力して自然や野生生物の保護に努めてきた著者の自叙伝。対立を煽るのではなく協力関係に持ち込んでより効果的な運動をやろう、と次の世代に呼びかける内容で、「誰が言っとんねん」とツッコミ入れるつもりで読み始めたけど、実際肝いりの穏健派だった。

著者がシアトルを拠点としてアース・ファーストなどに参加し直接行動団体で活動していたのは1980年代だが、わたしがポートランドに引っ越した1990年代末にはアース・ファーストは環境運動団体の中では比較的地味なほうで、地球解放戦線・動物解放戦線といった過激な団体がワシントン大学の動物研究施設に侵入したり森林伐採の器具を破壊するなどして「環境テロリスト」として騒がれていた。当時の北西太平洋岸では社会運動の世界ではそういう活動がわりと支持をえていて(わたしの周囲にもいたし、警察が「なにか知らないか」と訪ねてきたこともあった、何も教えるつもりないけど)、かれらは1999年のシアトルWTOプロテストでも活躍するのだけど、その頃にはすでに政府や民間との協調路線を取っていた著者は運動側から裏切り者扱いを受ける。

著者は直接行動を否定はしない。過激な直接行動団体が騒ぎを起こしてくれるおかげで自分のように政府や民間との協調路線を取る活動家がより穏健に見え、話を聞いてもらえるといった形で恩恵を受けていることも認めている。しかしかれ自身がその過激な直接行動に以前参加していたこともあり、しばらくのあいだは政府や民間からもあまり信頼されなかったという。まあそりゃそうだ。しかし非倫理的な動物研究や森林伐採、野生動物の駆除を止めるためとはいえ、物理的に他人の施設に侵入したり施設を破壊したり、自分の身体を危険に晒すことは、長期的には有効ではない、と著者は言う。

著者が関わっているような環境保全の運動は、森林や野生生物の保護に意味を見出す都市住民と、森林伐採に生活を依存していたり、大切に育てている家畜を野生動物に食い物にされる被害を受けている田舎の住民たちとの利害対立を引き起こす。都市から来た裕福な若者たちが森林や野生動物を守るという口実で地域の住民たちの生活を圧迫することが地元住民たちに受け入れられるはずもなく、ただ手間やコストを増やし迷惑をかけるだけで何の解決にも繋がらない。それよりは住民たち自身が将来のリソースを保全するために森林や野生動物をある程度保護してきた先住民たちの知恵を参考に、政府の専門家や地域住民たちと協力して有効なリソースの管理を目指すべきだ、というのが著者の考え。

また著者は、先住民の考えを参考にするだけでなく、実際に土地を買い上げ本来の所有者である先住民に返還することで、伝統的なリソース管理を復活する試みにも参加している。そうした活動のなかでも返還の条件として先住民部族がその土地をどう利用するか指図することはなく、こういう期待を込めて返還する、という認識を記した文書を交わすことで、先住民部族が土地だけでなく主権を回復することにも協力しているのが良いと思った。

環境保護運動に限らずリベラルな社会運動が政府と敵対する姿勢を示すようになったのは、著者が引用しているPaul Sabin著「Public Citizens: The Attack on Big Government and the Remaking of American Liberalism」にも書かれているように、緑の党から大統領選挙にも出馬した(そしてアル・ゴアの大統領当選を阻止した)ラルフ・ネイダーの影響が大きい。ネイダーは政府は信用できないとして社会運動に取り組む弁護士や学生らを組織化し、政府に対して情報開示を迫ったり政府の決定に対して多数の裁判を起こすなどしたが、そうして損なわれた政府への信頼を取り戻すことには無関心だった。

こうした流れが長年続いた結果、Marc J. Dunkelman著「Why Nothing Works: Who Killed Progress—and How to Bring It Back」にもあるように、政府はありとあらゆる(個別には妥当に見えるが総体として非現実的な)規則やプロセスに従う義務を負い、大きなプロジェクトを実施するためにかかる時間やコストが跳ね上がった。またそうした規則やプロセスの各段階においてプロジェクトに反対する側が裁判に訴える機会を生み出し、意欲的な政策が実現できないようになってしまった。保守や右派よりもまずリベラル・左派のあいだで広がった政府への不信感は民主主義の機能不全を起こし、イーロン・マスクとその子分たちがDOGEを名乗って連邦政府機関に乗り込み大勢の職員を解雇し組織を破壊することを許す原動力にもなった。

いやー、ほんとに最初は「誰が言っとんねん」って言うつもりで読み始めたんだけど、民主主義の危機についての話にまでなるとは思わなかった。いまの若い活動家たちに伝わるかは分からないし、わたしは過激な直接行動もそこそこ必要だと思うんだけど(自分にはできないので他人任せ)、思ったより良かった。