Paul Sabin著「Public Citizens: The Attack on Big Government and the Remaking of American Liberalism」

Public Citizens

Paul Sabin著「Public Citizens: The Attack on Big Government and the Remaking of American Liberalism

アメリカの政治史において、世界恐慌や第二次世界大戦を乗り切るためにフランクリン・ルーズベルト大統領が始めたニューディール政策が「大きな政府」を生み出し、それに反対して保守派は「小さな政府」を掲げ、ついに政府は解決策ではなく問題だと言い放ったレーガン大統領を1980年に当選させた、というのが一般的に認知されたストーリーなのだけど、この本はレーガン革命に先立ってリベラル派の中から生まれた「大きな政府」への不信や批判に注目する。

ニューディール時代には、政府がかつてないほど権限を拡張したうえで、労働者の生活と戦争遂行に必要な産業を守った。政府にはさまざまな社会保障や規制を計画的に行うための専門性があると信頼され、それが戦後の豊かさをもたらしたと考えられた。ところがかつて「大きな政府」を支持していたリベラルの中から、政府は大企業によって買収され、市民や消費者を守るためではなく大企業を市場競争から守り利益を与えるために規制が使われている、という批判が起きる。当時ベストセラーになったジェーン・ジェイコブス(『アメリカ大都市の死と生』)、レイチェル・カーソン(『沈黙の春』)、そして本作の主役である環境・消費者保護活動家ラルフ・ネイダーらの著作によりそうした問題意識は共有され、60年代終盤から70年代にかけて、政府は頼りにならない、政府による規制は必要だが、規制が市民や消費者の権利を守るように、法律や裁判で監視しなければならない、という考えが広まる。

また、フォード財団などのリベラルエリート層も、過激さを増すストリートの反戦運動やブラック・パワー運動などを嫌い、ネイダーやそのフォロワーが設立した多数の非営利団体による法廷闘争を支援するようになる。ネイダーは最盛期の1972年には民主党の副大統領候補にならないかと誘われるほど影響力を持ったけど、民主党議員や労組幹部らも敵にまわして「大きな政府」とニューディール連合に対する批判を続けた。カーター政権でも入閣を断っただけでなくカーターの再選に反対する姿勢を見せ、環境や消費者保護の面では民主党と共和党に違いはない、と言うまでになる。

1980年の選挙でカーターがレーガンに負けたことにはほかにも理由がたくさんあるけれども、2000年の大統領選挙にネイダーが立候補してゴアから票を奪いブッシュの当選を助けたり、2016年にサンダースの支持者の一部がクリントンへの投票を拒んでトランプを当選させた元凶にある、民主・共和両党はどちらも大企業に支配されていて違いはない、という、もしかしたら3回もの大統領選挙の結果に影響したかもしれないレトリックはここから来ている。また、エリート校出身の弁護士やその他の(白人男性)専門家がプロフェッショナルとして非営利団体で働き市民や環境を守るというモデルを広めたのもネイダーで、1970年代以降のアメリカ政治にかれが与えた影響はものすごく大きい。運動のあり方や運動と政府との関係について考えるうえで、どうして今のような政治文化になったのかの理解は大事。