Mike Africa, Jr.著「On a Move: Philadelphia’s Notorious Bombing and a Native Son’s Lifelong Battle for Justice」

On a Move

Mike Africa, Jr.著「On a Move: Philadelphia’s Notorious Bombing and a Native Son’s Lifelong Battle for Justice

ブラック・ナショナリズムの流れを汲み、1985年に市によって施設に爆弾を投下されたことで知られるフィラデルフィアの団体MOVEのなかで生まれ育ち、いまその歴史を語り継ごうとしている著者による自叙伝。

MOVEは名前をジョン・アフリカと改名した黒人男性によって創設された運動団体およびコミューンで、全ての命を尊重するという考えのもと今で言うアニマルライツや環境運動の先鋭的な活動を行った。メンバーはみなラストネームを魂の故郷であるアフリカと改名し、子どもは共同で育て生物学的な父親や母親が誰なのかも基本教えず、自然な生き方を目指すため加工されていない生の食材だけを食べることが推奨された。テレビ番組で猿が椅子に手錠で繋がれているのを見てテレビ局に直行し、番組の司会を椅子に手錠で拘束して「猿の気持ちが分かったか」と言ってのけたとか、やってることは分かるけどやばすぎ。

集団生活を行っているうちに近所の人たちと問題が起きるし、とくに問題だったのは「自然ではない」医療や教育を否定し、子どもたちにそれらを受けさせようとしなかったこと。主に黒人たちが集団で集まって変なことをしている、子どもたちがネグレクトされている、ということで当然市や警察から目をつけられ、1978年には理由をこじつけて施設からの退去を警察が求めるが、銃撃戦に発展し警察官の一人が射殺される。亡くなった警察官は味方の誤射を受けたという疑いがあったものの裁判では9人のメンバーたちが有罪判決を受けそれぞれ100年の刑期で投獄される。著者の両親(とのちに分かった人たち)もそのうちの2人で、著者はかれらが収容されてすぐ刑務所内で産まれ組織に引き渡された。

MOVEの施設で育った著者は組織の教えを受け入れて刑務所に入れられた政治犯たちを尊敬していたけれど、ふとしたことで組織外の子どもたちに触れて話が合わなかったりかれらが食べている食べ物をうらやましいと思ったりも。1985年、500人の警察官たちはふたたびMOVEのメンバーを逮捕しようと施設に突入するも、メンバーたちが地下室にたてこもり出てこないため、ヘリコプターから二個の爆弾を投下して建物を破壊。周囲の住民は先に非難させられていたが、MOVEのメンバーのうち創始者ジョン・アフリカを含めた大人6人、子ども5人が焼死、周囲の建物65軒にも延焼した。いやいやいやいやフィラデルフィア警察なにやっちゃってんの?ほかの施設にいたり地下に立てこもる前に捕まったりして生き残った遺族たちはフィラデルフィア市を訴えて慰謝料を勝ち取ったけど、無茶苦茶すぎ。表紙に写真がある焼け跡見てよやばいでしょ。

著者を含め生き残った子どもたちはメンバーの大人たちに引き取られて集団生活を続けるも、創始者がいなくなったり内部対立で派閥が分かれたことで規律がゆるくなり、かねてから希望していたとおり学校に通ったり調理・加工された食品を食べることも許されるように。しかし学校では組織の教えで体だけは鍛えていたとはいえ「MOVEの子」だとバレるといじめを受けるなどして、13歳で学校を中退してMOVEに戻る。実の親が刑務所で服役していると知った著者はかれらの保釈を求める運動に身を投じ、組織でも将来のリーダーと目されるようになる。のちに改革派検察官のラリー・クラズナー(「For the People: A Story of Justice and Power」著者)が当選したこともあり、刑務所内で亡くなったメンバーを除いて著者の両親らは保釈された。

ブラック・パンサー党や黒人解放軍など1970年代のブラック・ナショナリズムの系譜に繋がり、多くの人が冤罪だと信じている警察官殺害の罪で終身刑に服している黒人ジャーナリストのムミア・アブ=ジャマールがかつて支援していたことから、わたしはMOVEはなんとなくかれらに近い路線の政治団体なんだろうなあと思いつつ、同時にぼんやりとなにやら異質な雰囲気も感じていたのだけれど、フィラデルフィア市警察による暴挙の被害者という事実しかはっきりとは知らなかったMOVEについてよく分かった。「カルトだという人もいるが、もしMOVEがカルトならキリスト教も仏教もカルトだ」と著者は言ってるけど、うんまあ普通にカルトですね、初期のキリスト教や仏教も含め。カルトだからといって爆弾落とされて殺されるいわれはないけど。