Liz Ianelli著「I See You, Survivor: Life Inside (and Outside) the Totally F*cked-Up Troubled Teen Industry」

I See You, Survivor

Liz Ianelli著「I See You, Survivor: Life Inside (and Outside) the Totally F*cked-Up Troubled Teen Industry

問題を抱えた子どもたちの更生をうたった民間の全寮制施設に入れられ長年の虐待を生き抜いた著者が、同じ経験を持つサバイバーたちと繋がりそうした施設と戦ってきた記録の本。

著者が入居させられた施設は公的な少年院のようなものではなく、あくまで民間の団体。多くはキリスト教的な背景を持ち、非行や家庭内暴力などで家族の手に負えなくなった子どもたちが集められ、規則正しい生活を送りながら更生を目指す、という名目で運営されているが、その実態は不透明なことが多い。その源流にはかつてアルコール依存者の自助グループから派生してカルト的な活動が問題となったシナノンがあり、一人の子どもをほかの子どもやスタッフが取り囲んで罵声を浴びせる「攻撃療法」と呼ばれる偽治療が行われるなど、深刻な人権侵害が行われている施設も多い。

著者は親の言うことを聞かず学校をサボっていたら施設に連れて行かれ、そこで実際にはやっていない麻薬使用や売春を「お前はやっていたんだ」と決めつけられ、自己を否定されるとともに、スタッフの性的虐待を受けたり、ほかの子どもへの攻撃に参加させられたりした。当然、施設からは頻繁に逃亡者が出たが、もともと施設自体が田舎のはずれに設置されていることもあり、施設が経験なキリスト教徒によって子どもたちを更生させるために運営されていると信じている地元の住民たちによって通報され連れ戻された。また逃亡者が山に逃げたとなるとスタッフが子どもたちを車に乗せて山狩りに狩りだしたが、みんな逃亡した子どもを捕まえて報酬を得ることに必死で、協力して大人のスタッフ一人を倒して車を奪って逃げることなど考えることもできなかった。

そのうち著者は自分が18歳の誕生日を迎えていたことに気づき、合法的に退所することができたが、収容中に抱えたトラウマの影響が長引き、自分と同じ経験をした仲間たちとネットを通してつながるようになる。また組織的な性的虐待やその隠蔽について取り調べをする司法当局に協力する一方で、仲間とともに自分を虐待した施設スタッフの実家を探し当てて「自分を覚えているか」と脅したり、著者とは無関係の理由で施設が廃止された際には看板を盗み出して射撃場に持ち込み木っ端微塵に撃ちまくるなど、あんまりほかのサバイバーによる本にはないような過激な行動も書かれていて、その行動力とサバイバーへの愛にある意味憧れる。ダメだけど。

ボーイスカウトやカトリック教会、オリンピックコーチなどによる子どもの虐待が次々問題化されてきたことに加えて著者らの働きかけもあり、こうした施設の問題については近年関心が広がり、一部の州では一定の規制を設ける法律ができたほか、今年アメリカ下院でも民間の子ども更生施設を規制する法案が可決されている。きちんと知っておきたい。