Rebecca Clarren著「The Cost of Free Land: Jews, Lakota, and an American Inheritance」

The Cost of Free Land

Rebecca Clarren著「The Cost of Free Land: Jews, Lakota, and an American Inheritance

現ウクライナのオデッサで1905年に起きた史上最悪と言われるポグロム(ユダヤ人迫害)を逃れてアメリカに移住しサウスダコタで牧場を経営した祖先を持つユダヤ系ジャーナリストが、ホームステッド法を通して祖先に無償で与えられた土地がそう遠くない過去に先住民から不当に奪われたものであることを知り、先住民迫害の歴史とともに著者自身の家族の過去とその中で語り継がれてきた話の欺瞞を明らかにする本。

ホームステッド法は南北戦争のなか成立し、19世紀の終わりにはアメリカが西部開拓を進める重要な手段となった。不毛の地とされた公有地に入植し農場や牧場を開拓するなど「土地を改良」した人には無償でその土地の権利が譲り渡される、というもので、アメリカ史上最大規模の富の分配と言われている。かの有名なテレビドラマ「大草原の小さな家」もホームステッド法によって無償で土地を得た一家の話だ。

著者の祖先はポグロムを逃れアメリカに移住したが、当時のアメリカ東部には先に移住していた裕福なドイツ系ユダヤ人たちはそれなりの成功を手にしていたものの、著者の祖先を含む東欧やロシア帝国から迫害を逃れてきた貧しいユダヤ人移民たちの生活は苦しかった。そういうなか、かれらは政府や西部開拓を進めていた鉄道会社などが宣伝する「無償の土地」に応募し、同郷のユダヤ人たちと一緒に一斉に現在のサウスダコタ州に移住する。激しい差別や暴力により故郷を追われ、貧困に苦しみつつ、ついに手にした自由の土地で厳しい自然に立ち向かい自分たちの未来を勝ち取った輝かしい歴史としてこの話は一家で語り継がれてきた。

しかしかれらが「誰も住まない不毛の地」と言われていたその土地は、ほんの少し前までは先住民のスー(オセティ・シャコーウィン)族がバッファローを狩っていた土地であり、アメリカ軍による度重なる侵略戦争と人質を取って押し付けられた協定、そしてその協定すら署名された数年後には無視してさらに先住民の土地や権利を奪ったアメリカ政府の政策により不当に奪われたものだった。アメリカ政府は狩猟や採取を行う先住民を「文化的に遅れた民族」として、バッファローを乱獲するなどして意図的にかれらの生活手段を奪い、かれらが共同的に管理していた土地を細かく分割して個人に所有権を与え農業をさせることが、キリスト教に改宗させることと同じくらいに「遅れた民族」を文明化させる正しい政策だと考えていた。個人に分配した土地の「余り」は連邦政府の公有地とされ、それが著者の祖先を含めた入植者たちに無償で与えられた。

先住民たちは土地の所有権を与えられても農業をはじめていきなり十分な収穫を得ることはできないし、共同体的な生活を続けないようにと親族がわざわざ離れた土地を分配されるなどした。はじめは「先住民には財産を管理することができないから」として政府が所有権を管理するなどしていたが、ある時期からは英語を話す、第一次世界大戦に米軍の一員として従軍するなど「十分に進歩した」とみなされた人から個人財産を任されるようになったが、同時に過去数十年分の税金の支払いを求められ、当然支払えないので土地を売り渡すしかない人が多くいた。同じ時期、不景気や天候不良などで税金が払えなくなった白人入植者たちには、支払いを猶予してもらったり公的資金で設立された金融機関による融資によって土地を手放さなくても良いような施策が取られたことと対照的。

当初は先住民たちに個人として土地の所有権を分配し農業をやらせようとしていたアメリカ政府は、しかしこうしてかれらが土地を失っていくとともに、かれらを都市で不足した工場での労働力として動員する。著者の祖先のように先住民から奪った土地を無償で与えられた人たちだけでなく、その財産やそれによって生まれた機会を享受してきた著者、同じように奪われた土地を政府が分配することによって設立された大学やその他の公共機関から利益を得た人たち、都市に流出した先住民労働者のおかげで安く製品を買うことができた一般消費者など、それぞれその度合や利権からの距離は異なるものの、アメリカに住んでいる先住民以外の人たちはみんな先住民の迫害によって何らかの利益を得ている。

こうした歴史にどう向き合うべきか、著者はラビ(ユダヤ教の祭司)とともにトーラ(モーセ五書)などを読み解き、ユダヤ教の伝統から「自分自身が直接手を下したわけではない、しかし自分が隣接していた悪の行為にどう責任を取るか」について勉強する。これは、どの文化にも不正や不当な行為に対する措置について伝統的に積み上げてきた考え方があるはずだという考えに基づくもので、ロシア帝国で迫害を受けたユダヤ人の祖先がアメリカで別の民族の迫害に加担し、それによって現世代の著者に至るまで利益を得ていることについて、ユダヤ人として応答しようとしたもの。本書を通して事実を明らかにするのもその一部であり、また親族に呼びかけて当時祖先が与えられた土地の代金にあたる金額を、奪われた土地を買い直す運動をしている先住民の基金に寄付しようともしている。

自分の祖先が関わった、そしてその結果として自分も利益を得た歴史的不公正について調べ明らかにするという意味では、数ヶ月前に紹介したSarah L. Sanderson著「The Place We Make: Breaking the Legacy of Legalized Hate」とも共通しており、しかもどちらも著者はポートランド在住。同じ時期に似たようなテーマで本を書いていた二人はお互い面識があるのか、支え合ったりしたのかどうか気になる。