Keeanga-Yamahtta Taylor著「Race for Profit: How Banks and the Real Estate Industry Undermined Black Homeownership」

Race for Profit

Keeanga-Yamahtta Taylor著「Race for Profit: How Banks and the Real Estate Industry Undermined Black Homeownership

最近読んだ「The Color of Law: A Forgotten History of How Our Government Segregated America」がおもしろかったので、もっと知りたくて読んだ。「The Color of Law」は住居の黒人隔離およびそれによる経済格差の固定・拡大が民間の不動産業者などによる差別的行為や白人・黒人それぞれの主体的な選択によるものではなく、政府の政策によって作り出されたものであることを指摘している。それに対して、この本のサブタイトルは「銀行と不動産業界が黒人の住宅所有を阻害した」という内容なので、政府と民間という焦点の違いかな、と思ったのだけど、どちらの本も結局は政府の政策介入が銀行や不動産業界が黒人たちを食い物にすることで儲けるインセンティヴを作った、という、結局同じ話だった。ただどちらもオーバーラップする時代を扱っているとはいえ、「The Color of Law」がジョンソン政権において公民権法が成立する以前の話を主に扱っているのに対して、「Race for Profit」はニクソン政権以降の話を詳しく説明していて、両方読む価値あり。てか両方読むべき。

ニクソン政権時代の話で興味深いのが、ミット・ロムニー元大統領候補(現上院議員)の父親で、ミシガン州知事からニクソン政権の住宅都市開発長官になったジョージ・ロムニーの話。かれは人種問題に関してリベラルな立場で、南部白人の黒人差別に同調することで当選したニクソン政権にあって異質。かれは差別的な政策によって戦後の自宅(による資産形成)ブームに乗り遅れて経済的に置き去りにされた黒人たちが自宅を所有できるように必死に取り組むも、政権内部で孤立し、政府の役割を民間に委託しろという流れに乗ってしまった結果、政府職員と業界の癒着により、黒人に無価値な住宅を押し付け、借金だけ増やしたうえで住宅を取り上げ、さらに困窮させるという結果を招いてしまう。この流れは近年のサブプライムローン問題と同じ。ニクソン政権では「住宅購入者がローンを払えなくても政府が買い取る」という保証により、そしてブッシュ政権では「住宅購入者がローンを払えなくても不動産ブームにより住宅の価値が上がるので住宅を取り上げれば元は取れる」という環境のせいで、ローンの支払いを受け取るよりも購入者を破綻させたほうが儲かるというインセンティヴを生んでしまったのが原因。

更に言うと、第二次大戦後の自宅ブームと白人中流社会の成立を支えたさまざまな施策が大衆を対象としていたのに対して、「弱者救済」のロジックで実施される貧困層や黒人の支援を謳う政策は、目的がいくら素晴らしくてもどうしても本当にかれらの立場に立った政策にはならず、食い物にされがち。そのあたりがやはり、「弱者」に対象を絞った救済策と比べた、ベーシックインカムや一律支援金の優れた点。著者が言う「predatory inclusion」(略奪的包摂)という言葉は、ほかのさまざまな問題でも重要だとおもう。