Kate Conger & Ryan Mac著「Character Limit: How Elon Musk Destroyed Twitter」
ニューヨーク・タイムズのテクノロジー担当記者二人が書いた、イーロン・マスクがどのようにツイッターを破壊したかという本。
マスクによるツイッター買収とその後の無茶苦茶な展開については既に先行して何冊も本が出ていて、以前読んだKurt Wagner著「Battle for the Bird: Jack Dorsey, Elon Musk, and the $44 Billion Fight for Twitter’s Soul」とZoë Schiffer著「Extremely Hardcore: Inside Elon Musk’s Twitter」で内容的には十分で、本書を読んで新たに知った情報はあまりないのだけど、やっぱマスクこいつあかんな、あとドーシーもや、という感想しか浮かばない。
かねてから賛否両論あったとはいえ、電気自動車や宇宙進出の分野で革新的な技術開発を推し進めたマスクがどうしてソーシャルメディアに1日中張り付いて陰謀論や白人至上主義的なデマを拡散する残念な人間になってしまったのか、という疑問は、「Burn Book: A Tech Love Story」を書いたテクノロジージャーナリストKara Swisher氏らかつてかれに魅力を感じていた人たちが抱いているものだけれど、その重要な要因として、コロナウイルス・パンデミックの際にカリフォルニア州政府によって工場の閉鎖が命じられたこととともに、マスクの子どものうちの一人がトランスジェンダーとしてカミングアウトして父親との縁を切ったことの影響が強かったという印象を受ける。ただ単にトランスフォビックだというだけならかれの世代のシス男性には少なくないパターンだけれど、かれがトランスジェンダー・バッシングに偏執的に取り憑かれ、ツイッター旧運営がトランス差別アカウントを閉鎖したことに憤りツイッター買収を考えるまでになるのは、そして買収後は多額の損失を出しながらトランス差別アカウントを優遇するのは、かれの子どものカミングアウトや父親からの逃走とタイミングを同じくしている。本書はツイッターにおけるトランスジェンダー・バッシングとマスクの公私における立ち位置を丁寧に扱っている点が良いと思った。