Jessica Nordell著「The End of Bias: A Beginning: The Science and Practice of Overcoming Unconscious Bias」

The End of Bias

Jessica Nordell著「The End of Bias: A Beginning: The Science and Practice of Overcoming Unconscious Bias

意図しなくても相手の人種や性別などによって扱いを変えてしまう潜在的なバイアスについてのサイエンスライターの著者による本。前半はバイアスに関するこれまでのさまざまな研究の紹介、後半はバイアスを乗り越えようとする取り組みについてのジャーナリスティックな内容、という構成。人種や性別だけでなくトランスジェンダーや障害者や高齢者に対するバイアスなども取り上げている。

トマス・シェリングの有名な人種隔離についてのモデルを参考に、女性が与えられる機会や評価が男性に比べて数%だけ不利になる企業内昇進モデルを設計しコンピュータシミュレーションを実行したところ、もともと性別による格差が存在しない状態からスタートしたにも関わらず、ほんの少しのサイクルを経ただけで数%の格差が積み上がって大きな格差が生まれた、という研究が興味深い。多くの場合バイアスは評価を下す本人どころか差別されている当人にすら意識されないけれど、当事者すら意識できないほどの小さなバイアスも積み重なれば大問題になることがよくわかる。意図的あるいは組織的な差別を禁止する法律や倫理は、こうした細かいバイアスの積み重なりを阻止するには力不足。

前半の研究紹介の部分では豊富な実例をもとにバイアスの深刻な影響や複雑なシステムへの介入の難しさがこれでもかと示されるけれど、後半の解決法の部分は現在進行中のさまざまな取り組みが紹介されているものの、決定的な解決策もそれをきっちり証明するデータも未だに見つかっていないからか、ちょっとペースダウンする感じがする。たとえば学校で教師が子どもたちにジェンダーを押し付けないような取り組みなど、それなりに成功しているようでもあって、でもいろいろ疑問は生まれてくる。ただ明らかにダメな介入(人種や性別などの差異が存在しないかのように扱う=つまり実質的に全員が白人男性であるかのように扱う、など)はどうしてダメなのかある程度データとして分かっているので、参考になる部分は多い。「バイアスの終焉:はじまり」というタイトルの通り、バイアスについて取り組む入り口になる本。