Soraya Chemaly著「All We Want Is Everything: How We Dismantle Male Supremacy」

All We Want Is Everything

Soraya Chemaly著「All We Want Is Everything: How We Dismantle Male Supremacy

代表作「Rage Becomes Her: The Power of Women’s Anger」などの著作があるフェミニスト・ライターの新作。家庭・学校・職場・医療・政治などさまざまな分野における男性至上主義を名指しし、具体的なデータを挙げてそのパターンを指摘する。

タイトルは「わたしたちが求めているのはほんの『全て』だ」、サブタイトルは「どのように男性至上主義を解体するか」だけど、本書ではどちらの話題についてもそれほど詳しく語られてはいない。内容の大部分は先に書いたように男性至上主義——シス男性のそれ以外の人たちに対する優越性と支配する権利を肯定する思想的立場——を逐一指摘することに費やされており、「いまでは女性差別は大した問題ではなくなった、むしろ男性のほうが差別されているのではないか」的な男性インフルエンサーたちが若い男性たちに広めている主観に対する現代的な反論となっており、具体的にどう対抗し男性至上主義を解体するのかという内容は少なめ。まあ事実をきちんと認識することがその第一段階であるのは明らかなので、とりあえず現実を知ることからはじめるのは大事。

最終章は本自体の題名と同じタイトルが付けられていて、本書の内容を踏まえたうえでフェミニストたち、あるいは男性至上主義に反対する人たちが何を求めているのか宣言するかたちになっている。そこでは男性至上主義にかわって目指すべきものが女性優位主義でないのはもちろん、女性を男性と対等の地位に押し上げるだけの男女平等でもなく、インターセクショナルな反差別・反格差の連帯であることが示される。宣言中や参考文献欄にリストアップされた文献はちょっとごちゃ混ぜ感がありすぎるし、本文中でそれらの内容が十分に参照されているようにも思えないけど、あんまり優しすぎないフェミニズムの入門書としてはいいかも。

わたしが紹介した中では、この著者の本は「The Resilience Myth: New Thinking on Grit, Strength, and Growth After Trauma」に次いで二冊目。