Chrissy King著「The Body Liberation Project: How Understanding Racism and Diet Culture Helps Cultivate Joy and Build Collective Freedom」

The Body Liberation Project

Chrissy King著「The Body Liberation Project: How Understanding Racism and Diet Culture Helps Cultivate Joy and Build Collective Freedom

フィットネスコーチ・インフルエンサーの著者が、黒人女性として髪型を含めた身体のあり方をあれこれ指図されたり、自分の体型をコントロールしようとさまざまなダイエットを繰り返して苦労した経験から、ダイエット文化と身体規範の解体と身体の解放を訴える本。

近年ボディ・ポジティヴの運動は世間に認知され、インスタグラムなどソーシャルメディアでbodypositiveと検索すると多数の写真がアップされている。全ての人が他人の視線を気にせずに自分の身体を愛し誇りに思うべきだ、という考え方は良いけれど、身体を理由とした差別や偏見は根強く社会に残っており、誰もがみな同じように自分の身体に愛情や誇りを感じることができるわけではない。もともとボディ・ポジティヴを提唱したのは、黒人やその他の非白人の女性、太っている人たち、障害のある人たち、クィアやトランスの人たちなど、外見からさまざまな差別を受けそれを跳ね除けようと戦っていた人たちなのに、いまでははなから社会的に称賛されるような身体の持ち主たちが「ボディポジティヴ」のハッシュタグで自分の身体を誇らしげに披露している。かれらが自分の身体に誇りを抱くことはまったく悪くないのだけれど、そうすることの社会的な困難の格差を踏まえなければボディポジティヴは「こうあるべき」という新たな呪いとなって差別や偏見を受けている人たちを追い詰めてしまう。

著者は身体の解放への中間地点として、とりあえず自分の身体を否定しないようなボディ・ニュートラル(身体中立)にたどり着くよう呼びかけつつ、わたしたちの多くが自分の身体に愛情や誇りを抱くことを困難にしている社会的な風潮に抵抗することの必要性を訴える。たとえば褒め言葉のつもりで「痩せたね」と声をかけることは本人がどうして痩せたのか、それで幸せなのかといった事情を配慮していないばかりか、痩せることは良いことだという偏見を強化し、過去の(そしてかなりの確率で未来の)その人を否定することになってしまう。自身が他人を妊婦と間違えて酷い空気にしてしまい恥をかいた経験などに触れつつ、他人の身体に対する不必要な言及や価値判断をやめるよう著者は呼びかける。

まあ当たり前のことを言っているだけという気はするのだけれど、日本人のプラスサイズモデルの方がツイッターで毎日大量の余計なお世話的なコメントを捌いているのを見たりしていると、必要なメッセージだなあと。あと、2020年にブラック・ライヴズ・マターの運動が盛り上がると著者のもとには突然「フィットネス業界における多様性について話してください」という依頼が殺到したけれども、無償で搾取しようとしたり値切ろうとするなど、「人種差別問題に取り組んでいますよ」と対外的にアピールするためのものが多く本当に人種差別を無くそうという意欲が感じられなかった、という2020年あるある話も。