Karen L. Cox著「No Common Ground: Confederate Monuments and the Ongoing Fight for Racial Justice」

No Common Ground

Karen L. Cox著「No Common Ground: Confederate Monuments and the Ongoing Fight for Racial Justice

南部を中心にいまでも数百あるとされる旧南軍を讃えるモニュメントの歴史についての本。主に19世紀終わりから20世紀初頭に建てられたこれらの像は、「連合国(南軍)の娘たち」やその他の団体によって、南北戦争による南軍の正当性や人種融和の不当性を主張するために建てられ、それらを主張する人たちによって、守られてきた。それに対して自由を得た南部の黒人たちはその当時からそれらを批判し、ときには暴徒にリンチ殺害されてきた。この対立は現在までずっと続いていて、いまはさすがに奴隷制をおおっぴらに支持する人は少ないものの、「奴隷制は当時としては(北部の工場労働とくらべて)それほどひどくなかった、むしろ良かった」とか「南軍は奴隷制ではなく州の自治のために戦った」という「南部神話」が語り継がれている。

この本に描かれた南部モニュメントの歴史を通して読んで痛感するのは、南部の白人が語る「南部の伝統」が、黒人の存在と声を徹底的に抹消して成立しているということ。あたりまえだけど、去年になって急にBLMが盛り上がって各地の像が倒されたなんて話ではない。むしろ南軍モニュメントを撤去する運動はそれらが建てられた当時からずっと続いていたけど、暴力やブラックコードと呼ばれる黒人の政治的・経済的権利を制限するための法律によってずっと押さえつけられてきた。さらに、各自治体でモニュメントの撤去や変更に関する法律が作られ、市議会や市長が撤去しようと決めてもできないような仕組みになっていた。

たとえばわたしが2016年にニューオーリンズを訪れたときには多数ある白人至上主義的モニュメントのうちとくに南軍に関係した4つの像について撤去が議論されていて、その2年後に同じ場所を訪れたときにはそれらは撤去されていたのだけど twitter.com/emigrl/status/… その際も白人至上主義者らによって裁判が起こされて大変だったし、ニューオーリンズで運動に関わっていた黒人レズビアンの友人に聞いた話だと、撤去を受注した業者には脅迫が相次いだので、従業員の安全を危険にさらすことはできないと、社長とその家族が真夜中にひっそり撤去した。白人至上主義者が全国から集まり、そのうち一人が意図的にカウンタープロテクターの中に車で突撃し一人が死亡、多数が負傷したシャーロッツビルの2017年の事件も、市がロバート・リー将軍の像を撤去することを決めたことに対する白人至上主義者による抗議運動がきっかけだった。タイトルの「no common ground」とあるように、南軍モニュメントに賛成するかどうかは究極的には南北戦争後に南部で広まった南軍の「大義」を認めるかどうかになる。

ちなみに、今も残るそうしたモニュメントの1つを見学し、その南軍の「大義」に感銘を受けて「南軍が戦争には負けたけれど正しかったのと同じく、日本は戦争に負けたけど正しかった」と共鳴しているのが、「慰安婦」像撤去などを世界に訴えている「なでしこアクション」の山本優美子さん(元「在日特権を許さない市民の会」副会長)だったり。