Jeremy W. Peters著「Insurgency: How Republicans Lost Their Party and Got Everything They Ever Wanted」

Insurgency

Jeremy W. Peters著「Insurgency: How Republicans Lost Their Party and Got Everything They Ever Wanted

90年代のパット・ブキャナンのブッシュに対する反乱や2008年副大統領候補サラ・ペイリンの台頭、ティーパーティ運動を経てドナルド・トランプに至る、共和党がポピュリズムと白人男性ナショナリズムに乗っ取られたここ30年以上についての本。「どのようにして共和党は党を失い、全てを手に入れたか」という刺激的なタイトルは、かつて共和党を率いていると自認していたブッシュ一家、マケイン、ロムニーらが党の支配を失ったにもかかわらず、企業や富裕層への大型減税や最高裁の今後当分の保守支配などかれらがやろうとしてもできなかったことをトランプが実現したことを示している。

オバマがロムニーを破って再選を果たした2012年大統領選挙のあと、共和党全国委員会は敗戦の原因を分析し、レポートを発表した。このレポートは共和党の支持者が高齢の白人男性に偏っていることを指摘し、未来の選挙で共和党が勝利するには、支持層をより広げる必要があると主張。具体的には、反移民の党というレッテルを払拭するために現実に国内で働いている多数の移民たちが市民権を得られるような改革を進める、黒人その他のマイノリティたちの意見に耳を傾ける、同性愛者の権利が今後後退することはありえないので無駄な抵抗はやめて受け入れる、など、党の裾野を広げることが強く主張された。しかし実際に共和党内で勢力を広げたのは、トランプや極右メディアに掘り起こされた白人男性の「怒り」を背景にしたポピュリズムだった。

大統領選挙に立候補するまえのトランプがオバマの国籍に疑いをかける陰謀論を広めて白人ナショナリストの支持を集めたことはよく知られているが、著者はそれより前に起きた、いわゆる「グラウンド・ゼロ・モスク」騒動へのトランプの関わりに注目する。9/11同時多発テロ攻撃の現場となったニューヨークの世界貿易センター近くにイスラム教のイマムがコミュニティセンター(キリスト教系のYMCAやユダヤ教系の「ユダヤコミュニティセンター」のように人種や宗教に関係なくさまざまな人たちが利用できる文化施設やジムとして計画されていた)の設立を目指しビルを買い取ったことに対し、パメラ・ゲラーやロバート・スペンサーらのちに広く知られることになる白人至上主義者や反移民・反ムスリム活動家らが「アウシュビッツ強制収容所跡地にナチスの本部を設置するようなものだ」と反対運動を展開した。ニューヨークの不動産王を自認するトランプはこの問題に介入し、計画を撤回するなら自分がコミュニティセンターの建物を元の2割増しの金額で買い取ると宣言し喝采を浴びる。ヘイトを扇動したうえで自分だけが問題を解決できると公言するトランプのスタイルはここで完成した。

本書はトランプ本人を含む多数の共和党系の議員、関係者、支持者たちへのインタビューを元にしており、またトランプ政権で重用されたさまざまな人たちがどのようにトランプに近づいていったのかなども詳しく説明されていて、政治オタクにとっても読み応え十分。