Da’Shaun Harrison著「Belly of the Beast: The Politics of Anti-Fatness as Anti-Blackness」

Belly of the Beast

Da’Shaun Harrison著「Belly of the Beast: The Politics of Anti-Fatness as Anti-Blackness

太っている人に対する偏見や差別は黒人差別と交差しているのではなく黒人差別そのものだと指摘する本。著者は太っている黒人を自認する男性寄りノンバイナリー(日本で言うところのFTX)のライター。ファットポジティヴやボディポジティヴの呼びかけは社会的構造を変えることなく個人の心構えだけを変えようとすると批判したうえで、健康や勤勉さなど太った人への偏見に結びついた概念が伝統的な反黒人主義の要素であることを鋭く指摘する。150ページにも満たない短い本でありながら、さまざまな体型に社会が寛容になるだけでは不十分であり、反黒人主義を支える社会の全てをぶち壊さなければならない、と力強く主張している。

反ファットネスと反黒人主義の結びつきの現代における印象的な証拠は、ブラック・ライヴス・マター運動が起きる原因となった、警察による数々の黒人たちの殺害をめぐる報道や議論における警察擁護論に見られる。殺された黒人たちの多くは警察官やその擁護者によって「獣のようだった」「(プロレスラーの)ハルク・ホーガンのような身体だった」と実際より大きく圧迫的だったように描写され、またかれらの多くが(ほかの多くの貧しい黒人たちと同じように)健康上の疾患を抱えていたことを理由に「死因はかれら自身の生活慣習であり、警察がかれらを拘束したときに死亡したのはたまたまだ」と論じられた。

反ファットネスについての議論の多くは白人女性の経験を元にしたものであり、たまに黒人の経験を題材としたものがあっても多くは黒人女性のそれだ(たとえばSaseli Bowen著「Bad Fat Black Girl: Notes from a Trap Feminist」参照)が、この本の終盤では複数の太った黒人トランス男性や男性よりノンバイナリーの人たちへのインタビューが紹介されており、それだけでも価値のある本。