Patrick Ruffini著「Party of the People: Inside the Multiracial Populist Coalition Remaking the GOP」

Party of the People

Patrick Ruffini著「Party of the People: Inside the Multiracial Populist Coalition Remaking the GOP

選挙のプロとして共和党(旧)主流派のブッシュ一家などの選挙に関わってきて2016年にはトランプの党指名獲得を阻止しようと奔走した著者が、そのトランプの活躍によって共和党が黒人やラティーノなど人種的・民族的マイノリティの労働者階級を呼び込んで人種的に多様な政党へと変貌を遂げていると主張する本。

2008年、2012年の選挙でオバマが大統領に当選したとき、共和党は近年ますます多様性に不寛容な年老いた学のない白人だけの党となりつつあり、非白人・移民・女性・若者・大学卒業者などの支持を集めている民主党が今後の人口構成の変化によってどんどん有利になっていくという認識が民主党だけでなく共和党の(旧)主流派のあいだでも共有された。共和党が今後も二大政党の一つとして民主党と競うためには、妊娠中絶や同性婚への反対を取り下げ、人種差別や移民排斥と決別し、環境に気を配るなどして、増えつつある非白人や移民、新しい世代の若者、大学卒業者、そして力を増している女性の支持を取りにいかなければいけない、と。

しかしその次の2016年の選挙では、そうした党指導部をあざ笑うかのように、人種差別的な発言を連発し移民をバッシングし、女性に対する性的加害行為を誇らしげに語るトランプが党の大統領候補に選出され、そのままクリントンを倒して大統領に当選してしまう。再選を目指した2020年にトランプはバイデンに敗れるものの、どういうわけか2020年のトランプは2016年に比べて黒人やラティーノ、アジア人からの支持を大幅に増やしていた。とはいえいまだにそれらのグループは全体としてはトランプよりバイデンへの支持のほうがはるかに多いのだけれど、著者はトランプが非白人からの支持を増やしたのは偶然ではなく今起きている党システムの再編成のはじまりだと主張する。

人口構成の変化により民主党がますます有利になるという議論では、共和党は低学歴の白人男性だけから熱烈な支持を得ている未来の見えない党として理解されてきたが、著者によるとアメリカの人口構成のうち特殊なのは低学歴の白人男性ではなく、高学歴の白人だという。アメリカ人の大半が保守にせよリベラルにせよおおむね政治的に穏健な考え方であり、社会的には急激な変化を望まず、努力した人が正しく報われる経済構造を望んでいるのに対し、高学歴白人だけは左派も右派も極端な思想に走りがち。困ったことにそれぞれの党で指導的な立場にある人たち、政府で高い地位についている人たち、メディアの論調を作っている人たちらの多くはその高学歴白人であり、かれらは自分たちの突出した考え方が多くの人たちを代弁していると勘違いしているため、右派なら省庁を解体するとか年金制度を民営化すると叫び、左派は社会主義を唱えたり警察を廃止するとか言い出す。2020年大統領選挙で非白人層が軒並みトランプへの支持を増やしたのは、非白人が自分たちの側についていると勘違いした民主党の高学歴白人たちがAOCら左派議員の人気やブラック・ライヴズ・マター運動に便乗して、あるいはそれに突き動かされて、非現実的な改革を唱えたからだと著者は主張する。

現実主義的な傾向の強い黒人有権者の存在が民主党内において左派の暴走に対するチェックとして機能している、という指摘はもっとも。最近だと2020年の予備選挙の序盤に苦戦していたバイデンが一気に最有力候補に躍り出たのはサウスカロライナ州で黒人たちがまとまってかれを支持したからだし、多くの黒人たちは2008年のオバマにも最初のうちかなり懐疑的で、かれらがオバマを認めたのはアイオワ州でオバマが人口の大半を占める白人の支持を得られることを証明したあとだった。しかし近年、黒人有権者がまとまって行動することを可能にしてきた黒人教会やその他の黒人コミュニティの組織は弱体化し、かつてのような影響力を行使することはできなくなりつつある。とくにコロナによる規制で教会に集まることが少なくなった2020年、もともと保守的な価値観を持っていた黒人たちがコミュニティの意向を外れてトランプに投票しやすい環境が生まれた。

著者は民主党がAOCらやブラック・ライヴズ・マターに押されて極端な主張をした結果、逆に黒人やラティーノからの支持を失ったと言っているのだけれど、民主党の政治家で実際に警察の廃止を主張した人はほとんどいないし、「批判的人種理論」を推進したりもしていないので、民主党がどうこうではなく右派メディアやトランプによってそうレッテル貼りされたのが効いた、ということのような。あと、低学歴の一般労働者にアピールする経済的ポピュリズムの政策を、というところでサンダースはかれらにアピールするというのにAOCは反発を浴びると著者が言っているのは、やっぱり経済的ポピュリズムどうこうじゃなくてAOCが非白人の女性だからじゃないかと感じてしまう。

そもそも黒人やラティーノからトランプへの支持が増えたのは、もしかしたら2016年には当時のオバマ大統領への支持がそのままクリントンへの票にスライドしていてたまたまクリントンがかれらの支持を多く得ただけのような気もするし、今後このトレンドが続くかどうか注目しよう、以上の話ではないのかもしれない。ただまあ、選挙結果がどうなろうと生活を脅かされることが少ない高学歴白人に比べていろいろリスクを負わされる非白人や低学歴層が急激な変化を恐れる「生活保守」的な立場になりがちなのは事実で、それを甘くみると痛い目に遭うぞ、という警告はその通りだと思う。人口構成の変化により放っておいても民主党が勝てるようになる、という甘い認識もやめたほうがいいと思う。