Iuliia Mendel著「The Fight of Our Lives: My Time with Zelenskyy, Ukraine’s Battle for Democracy, and What It Means for the World」

The Fight of Our Lives

Iuliia Mendel著「The Fight of Our Lives: My Time with Zelenskyy, Ukraine’s Battle for Democracy, and What It Means for the World

ウクライナのジャーナリストで、2019年から2021年までの二年間ゼレンスキー大統領の報道官を努めた著者が、ロシアの侵略を逃れ国内で疎開した先で書いた本。ロシアに占拠されいまもウクライナとロシアのあいだで攻防が続くウクライナ南部ヘルソンの貧しい家庭に育つもジャーナリストとして国際的に評価されるようになった著者が、コメディアン・俳優から大統領に当選したゼレンスキーに自分を重ねつつ、侵略者ロシアの非道と祖国への思いを語る。

先月わたしは別のウクライナ人ジャーナリストが書いたゼレンスキーの伝記を読んだのだけれど、ゼレンスキーの経歴の情報量としてはそちらのほうが多いのに、本書ではかれの人生の重要なポイントや当時の政治的状況がわかりやすくまとめられていて、こっちで十分だと思った。

また著者自身の人生についても、大学で論文を提出してもいつまでたっても教授が採点してくれず、ほかの学生から教授に賄賂を送らないと採点してもらえないよ、と教えてもらった話とか、その経験を元にジャーナリストとして書いた「ウクライナの大学における腐敗」をテーマとした記事が国際的に注目されたりとか、おもしろいエピソードも多い。国際的なジャーナリストから大統領報道官へ、というプロフィールを見ると典型的なエリートみたいなのだけれど、実際にはジャーナリストとして認められるまでの生活では経済的にさんざん苦労しているし、大統領報道官になったのもウェブサイトで応募して3000人のなかから選ばれた、という話で、実際にはずいぶん印象が違った。

ゼレンスキーの報道官になってからは、政治の素人だったために優秀なスタッフを集められずに迷走したり、国民にネットを通して直接語りかけることを重視するあまり海外の一流メディアのインタビューに応じようとしなかったりと(ウクライナは経済的にも防衛的にもその海外からの支援に依存しているのに)ゼレンスキー政権のダメなところも書きつつ、ゼレンスキー本人の才覚と誠意については絶賛。また、ロシアの政府系メディアによって著者がゼレンスキーと不倫関係にあって著者はかれの子どもを妊娠している、みたいなデマが流された話も。あとロシアによるデマだと、2019年に日本で新しい天皇が即位する式典に出席した際、オレナ・ゼレンスカ大統領夫人が黄色のワンピースを着ていたことが日本に対する侮辱行為にあたる、として、日本文化の専門家を自称する多数のSNSアカウントが彼女の衣装がいかに日本人を傷つけたか、という評論を拡散したらしい。すげーなロシア。

ロシアによる全面侵攻以降の話はニュースで読んで知っていたけど、そこに住んでいた人たちのエピソードとともに語られると悲惨さがより身近に感じられる。アメリカやNATOがいまより強硬な姿勢に出ることが平和につながるとは思えないけれど、ゼレンスキーや著者がそれを要求しているのはよく理解できる。どうすればよいかなんてわたしにはわからないし、わたしになにかできるようにも思えないけど、ウクライナの人たちの抵抗が続く限り関心を持ち続けていたい。