Staci Haines著「The Politics of Trauma: Somatics, Healing, and Social Justice」

The Politics of Trauma

Staci Haines著「The Politics of Trauma: Somatics, Healing, and Social Justice

トラウマからの快復と社会的公正の追求を融合させる活動を続けてきた著者の2019年の本。わたしにとって著者は、彼女がサンフランシスコ・ベイエリアでRunRiot!という性虐待サバイバーによる直接行動団体を取りまとめていた(「偽記憶症候群財団」の講演を妨害するなどしていた)時期の知り合いで、その後「五世代以内に子どもの性虐待をなくす」という目的を掲げたGeneration Fiveの活動をめぐってあれこれあり、彼女がソマティクスと呼ばれるボディワークを取り入れたトラウマからの快復を広める活動をするようになってからは疎遠になった。

彼女が掲げるジェネレティヴ・ソマティクスは、トラウマを生み出している背景に社会的抑圧や貧困などの影響が大きいことを認識し、ボディワークを通してトラウマを抱える個人が自分の身体感覚を取り戻すとともに、周囲のほかの人たちとの関係性や相互依存性を通して社会改革にも繋げようとするもの。うん、いいと思うけど、身体系のやつがとにかく苦手なわたしは長年ずっと避けてきた。でもまあ、話くらいは聞いてみるかな、と思って読んで、部分的には参考になる考えもあるなあと思った次第。

ここでGen5時代のあれこれの話になるんだけど、彼女がGen5をはじめた当初、修復的司法やそれに連なる活動をしてきた(わたしを含めた)各地の黒人やアジア人ら非白人系の女性&クィア活動家たちは、主に白人女性の団体であるGen5が自分たちのこれまでの活動の成果をかすめ取って、それに新しい造語を当てはめたりして白人中流階層向けにパッケージにまとめて売りさばいている、って思って批判的に見ていたのね。そのうち、Gen5のなかでも非白人女性たちが地位を得て自分たちが生み出した活動を取り返す、みたいな感じになって、最終的には認められるようになったのだけれど(その後閉鎖)、当初のイヤな感じがわたしの中には記憶として残っていて、それが著者の重要性や影響力を知っていながらこの本をなかなか読まずにきた理由の一つだったりする。

本書では彼女と一緒にソマティクスの実践や普及に関わる多数の人たちの証言が紹介されていて、その大部分は非白人だったり移民だったりクィア&トランスだったりして、かれらがどれだけソマティクスに救われたかが語られている。また、彼女が20年前に発足させたジェネレティヴ・ソマティクスの団体は全国ドメスティックワーカー連盟(NDWA。家政婦、ナニー、在宅ケア労働者など、他人の家庭内で労働する人たちの運動団体で、非白人の移民女性が多数を占める)と協力して、ドメスティックワーカーのリーダーたちにソマティクスのプログラムを提供している、ということをこの本で初めて知ったのだけれど、それが本当なら彼女の活動は本当に移民女性たちのためになっているのかも?と感じた。でもまあそのNDWAの担当者の証言も本書で引用されているのだけれど、その担当者はドメスティックワーカーではなく非営利団体の運営でキャリアを積んできた人のようなので、実際のドメスティックワーカーたちがどう思っているのか、いまひとつまだ信用してない。

本の最終章では、社会的公正の問題にはこういうのがあります、とばかりに、白人至上主義や女性への暴力、障害者差別などさまざまな差別や不公正の問題について次々と説明しているんだけど、やっぱりというか、実際にそれらの問題に取り組む人たちの経験に即した内容というよりは、社会的不公正についてお勉強しましょう的な印象を受ける。なかでも性的人身取引についての記述では、反売買春団体が宣伝している、専門家やメディアが完全に否定しているようなデマをいくつも無批判に紹介しているのだけれど、実際に反人身取引運動なり性労働者運動に活動している人と深く繋がっていればおかすはずのない間違い。

単なるパフォーマンスとしての反差別をする人はよくいるけれど、彼女の場合は本気で反差別をしようとして、演技のつもりではなく本心からそれなりにうまくパフォーマンスしてしまうのだけれど、だからこそいろいろ伝わらない、伝わっていないことすら伝わらないことを残念に思う。