Geoff White著「Rinsed: From Cartels to Crypto How the Tech Industry Washes Money for the World’s Deadliest Crooks」
世界の犯罪者たちが資金洗浄(マネー・ロンダリング)のためにテクノロジーをどう利用しているか解説する本。著者はテクノロジーと組織犯罪について詳しいジャーナリストで、北朝鮮による外貨獲得手段としてサイバー犯罪を担当しているとされるラザラス・グループについて書かれた前著「The Lazarus Heist: From Hollywood to High Finance: Inside North Korea’s Global Cyber War」と重複する内容も。
本書では電子メールで欧米の一般人からお金を騙し取るいわゆるナイジェリア詐欺やその発展型のロマンス詐欺、国際的な性的人身取引などの話題に触れつつ、犯罪者は犯罪によって得たお金を(1)どこかに入金し、(2)その出所を偽装し、(3)ふたたび引き出す、という3つのステップを必要としている、と説明する。大物の犯罪者になればなるほど利益は巨額となり、それをうまく隠したり、自由に使えるお金に変えることは難しくなり、資金洗浄のための専門家を必要とする。
そのなかでどうテクノロジーが使われてきているか、という話が本書のテーマなのだけど、ダークウェブで宣伝したり、ダークウェブを含めネットで他人の銀行口座を売買したり、ソーシャルメディアを使って銀行からお金を引き出す末端の協力者を雇ったり、ビットコインなど暗号通貨でお金をやり取りしたり、以前なら高級時計を買って物理的に受け渡していたけど今ではNFTアートの取り引きという形を取ったりという話で、まああんまりこちらの予想を超えてこない内容。匿名で扱えるとはいえすべてのやり取りが公開されているため追跡されるおそれがあるビットコインをシャッフルして出所を分からなくするサービスが生まれたけど、捜査当局に潰されたり偽物のサービスを作られてやり取りがすべて抜き取られていたりした反省を受け、誰も関与しなくてもプログラムされたとおりに暗号通貨をシャッフルしてくれるトルネード・キャッシュの仕組みが理解できたけど、それを知ってどうするという気も。既に開発者の手を離れ誰にも止められないトルネード・キャッシュの仕組みそのものには政府は手を出せないけど、アメリカ財務省が利用を禁止したので、一般の利用者は普通に捕まるし。
まあ全体を通して(周囲の環境的にどちらかというと犯罪者視点に近いわたしが)読むと、犯罪って一時的に大儲けしたとしても結局捕まるんだな、割に合わないな、と思ってしまうのだけど、まあ捕まっていない犯罪者についての情報は報道されていないから本書でも取り上げようがないことを考えると、実際にはわたしが思っているよりは割に合うのかもしれない。だとしても隠し切る自信ないし、とりあえず現在犯罪に手を染めなければいけないほど生活に困っているわけではないので、警察におびえて慎ましく生きていこう、うん。