Dionne Ford著「Go Back and Get It: A Memoir of Race, Inheritance, and Intergenerational Healing」

Go Back and Get It

Dionne Ford著「Go Back and Get It: A Memoir of Race, Inheritance, and Intergenerational Healing

かつて奴隷とされた黒人とその所有者だった白人の血を引く黒人家庭に育った女性が、自身のルーツを探しつつ、奴隷制とそのなかで起きた黒人女性のレイプや彼女自身が家庭内で経験した性的虐待のトラウマと向き合う本。

アメリカの黒人奴隷制度では、奴隷とされた黒人女性と所有者の白人男性のあいだの性行為は珍しくなかった。一方が他方の所有者とされていた以上そこには自由意志は認められず、それらは一律にレイプだったという評価は正しいが、とはいえ不平等ながら恋愛に見えるものに発展したとされるケースや、黒人女性の側から白人男性にうまく取り入って利用しようとした例などもあり、その実態は多様だった。トマス・ジェファーソン大統領とかれの奴隷とされたサリー・ヘミングスさんの例(Gayle Jessup White著「Reclamation: Sally Hemings, Thomas Jefferson, and a Descendant’s Search for Her Family’s Lasting Legacy」参照)は有名だし、白人男性になりすまして夫とともに奴隷としての立場から逃亡したエレン・クラフトさん(Iyon Woo著「Master Slave Husband Wife: An Epic Journey from Slavery to Freedom」参照)も父親は白人の奴隷所有者だった。しかしアメリカの人種システムでは、白人と黒人の子どもは黒人として扱われたため、多くの白人奴隷所有者たちは自分の息子・娘を奴隷として酷使し、また売買していたことになる。

本書はそうした背景を持つ家族に生まれた黒人女性が、自分のルーツを探して調査をはじめるところから始まる。彼女がその足がかりにしたのは、かつて彼女の祖先を奴隷として所有していた四代前の白人の記録だった。家族に代々伝えられてきた話から祖先の黒人女性に子どもを産ませた白人男性を割り出し、そこからかれの財産(奴隷)の記録を調べたり、かれによって奴隷として所有されていたほかの黒人たちについて調査したりして、少しずつ自分のルーツを明らかにしていく。もちろん自分の祖先を奴隷として所有していたその白人男性も、その祖先の一人でもある。アメリカの黒人の祖先を調べるとそのうち二割は白人に行き着くと言われており、その多くは奴隷ー所有者という極めて不平等な関係において生まれ、そして奴隷とされた子どもたちの系譜だ。

調査のなかで出会った黒人女性の遠い親戚と、南北戦争で連邦からの独立を目指したアメリカ連合国(南軍)を擁護する白人たちの団体「連合国の娘たち」に加入しようとするところはすごい。この団体は南軍の正当性を主張し各地に南軍を称える記念碑を設置してきた団体だけど、入会する条件は「南軍のために戦った人たちの子孫」であり、南軍に参加していた白人奴隷所有者の血を引く著者はその資格を持っている。もちろん南軍を擁護するためではなく、家系の調査とともに「南軍のために戦った人たちの子孫」の一人として内部から声を挙げて変えていくためだけれど、すごい勇気。

アフリカ系アメリカ人である著者がこれだけ労力をかけても明らかにできるのは彼女の祖先を奴隷として所有していた白人の家系以降であり、アフリカ大陸のどのあたりから連れてこられたのか、どの民族の一員だったのかまでは分からない。また、自分の祖先について知ろうとするうちにかつてかれらを奴隷として所有していた人たちの子孫(この場合は遠い親戚でもある)とコンタクトを取るも、かれらの奴隷制に対する認識の浅さに唖然とすることも。アメリカ人には白人・黒人問わず自分の家系を知りたいという人が多いのだけれど、アメリカの黒人が自分のルーツを知ろうとすることは労力的にも精神的にもものすごく大変。