David Gissen著「The Architecture of Disability: Buildings, Cities, and Landscapes Beyond Access」

The Architecture of Disability

David Gissen著「The Architecture of Disability: Buildings, Cities, and Landscapes Beyond Access

両足を切断され車椅子を使う建築家の著者が、特にアクセシブルな建築の専門家というわけでもないのにアクセシビリティのことばかり聞かれたり、「あなたのような障害のある人たちのための建築を専門にしたらいいのでは」とアドバイスを受けたりするのに飽き飽きして、建築と障害の関係について持論を訴える本。

本書の中心的なメッセージは、障害者が使いやすい建築というのは車椅子用のスロープを設置するなど物理的なアクセスを保証するだけじゃ駄目なんだよ、ということ。物理的なアクセスを重視する設計思考は人体や自然や建築物を機能で解釈する価値観と結びついており、資本主義社会において求められる機能を持たない身体が「障害」とみなされる。そしてアクセス思考は、自然や建築物をより物理的にアクセシブルにすることで身体に欠けている機能を補完し、そうすることで障害者の社会参加を可能にしようとする。この考えのもとでは、自然や古い建築物はアクセシビリティに欠けておりそれらを近代的な技術で補うことがアクセスを保証することになる。

著者はこうした考えに対して、ヨセミテ国立公園のような「自然環境」や古代の文化遺産などが近代以前には老人や障害者、傷痍軍人を含めた共同体の成員たちによって使われており、もともとアクセシブルではなかった自然や建築物を近代技術がアクセシブルにしているのではなく、もともと共同体的にアクセシブルだったものを近代の機能主義がアクセスできなくしてしまった、という歴史を語る。いやいやそういう例もあるだろうけど、このあたりちょっと不安。

本書にはほかにも、気温の感じ方が著者をふくめ特定の障害のある人はそうでない人とは違う、ということから、かつては日の当たりを増やすことが優れた建築だとされたが気候変動の結果として陰を作ることが重要となっているとか、とても興味深い指摘がいくつもあって、単純にスロープつけたらいいだろ、的な(建築)技術解決論への批判には頷けるのだけど、ところどころ「だから何?」と思ってしまう部分がある。