Danielle J. Lindemann著「True Story: What Reality TV Says About Us」

True Story

Danielle J. Lindemann著「True Story: What Reality TV Says About Us

古くは90年代に始まるMTV「The Real World」や2000年代の「Survivor」から現代に至るリアリティ番組を題材にした、リアリティ番組にハマっている社会学者による本。リアリティ番組で人気を博したあとに選挙に立候補し、当選してからはホワイトハウスをまるでリアリティ番組のように運営した大統領がようやく退任した今こそリアリティ番組の社会的影響について考えるときだ、みたいな本かもと思ったら、そういう話題は最後の方でほんのちょっとしか触れられてなくて、もっぱらサブタイトルにある通り「リアリティ番組を通してわたしたちの社会について考える」内容。というか、リアリティ番組における形式社会学的分析からはじまり、家族、子ども、階級、ジェンダー、人種、セクシュアリティ、ハビトゥス、逸脱といった社会学的な考え方をリアリティ番組を通して説明している感じで、「わたしたちの社会について考える」よりは「社会学について学ぶ」内容と言ったほうがいいかも。

著者は、リアリティ番組と呼ばれていても実際には人選から演出までプロデューサがデザインしている虚構でもあることが周知されているからこそそのなかで時々ほんとうのリアルがこぼれ出る瞬間や、低俗な娯楽だと見做されているからこそ他の番組ではありえない逸脱を通して社会的常識の綻びを明らかにしてしまうといった逆説に魅力を感じている様子。わたし個人はリアリティ番組はほとんど見ないのだけれど、著者のリアリティ番組への知識と情熱とそれを社会学入門の講義に変えてしまう手腕(学生には人気だろうと思う)はすごい。今月の「もともと興味がない分野だけど読んでみたらおもしろかった」枠(先月だと「Let’s Get Physical」や「And the Category Is…」と同じ)。

追記:邦訳「リアリティ番組の社会学: 「リアル・ワールド」「サバイバー」から「バチェラー」まで」2022年8月刊