Maximilian Kasy著「The Means of Prediction: How Ai Really Works and Who Benefits」

The Means of Prediction

Maximilian Kasy著「The Means of Prediction: How Ai Really Works and Who Benefits

人工知能(AI)の「アラインメント問題」と呼ばれる議論、すなわちAIシステムの動作を人間の意図や意思、倫理基準などに合致させるための研究や方法論に対し、本当の問題はAIと人間のアラインメントではなく人間のあいだの利害対立や権力的な不均衡であることを指摘する本。

タイトルの「The Means of Prediction」はマルクス主義経済学における「means of production(生産手段)」になぞらえたもので、直訳すると「予測手段」。マルクス経済学は資本家が生産手段を私的に所有し、生産手段を持たない労働者から労働力を買いそれを生産手段と組み合わせることで生まれる価値をかすめ取り労働者を搾取していると指摘するが、AIシステムも生産手段の一種であり数少ない資本家たちによりかれら自身の利益のために運営されていることは同じ。AIの進展による雇用の不安定化やアルゴリズム的差別の横行、経済格差の拡大、詐欺や嫌がらせの深刻化、デマやヘイトの拡散などAIの弊害として指摘されるさまざまな問題は、AIと呼ばれるさまざまな技術が必然的に引き起こすものではなく、またAIが人類の意図や意思から離れて勝手に実行したものでもなく、それらを所有する資本家たちが自らの利益のためにAIシステムを運用した結果だと著者は指摘する。

本書はLLMやその他のAIシステムの仕組みなども軽く説明しつつ、AIがもたらしているとされるさまざまな問題が実はAIに対する民主的な制御の不備の問題であり、サム・アルトマンやイーロン・マスクらがこぞって論じたがる「アラインメント問題」は本当に深刻な分断が人類とAIのあいだではなく人類の支配層と被支配層のあいだに存在することを見失わせる危険すらあることを説明する。資本家の利害に対抗する可能性を持っていた労働運動や政府の規制当局が弱体化され、将来の利益を見込んでAIに多額の資金を投入する資本家・投資家らが政府に対して強い影響力を持つなか、AIに対する警戒心が広まるのは当然だが本当の問題はそこにはない。選挙や政治だけに限らず職場や文化のフィールドも含めた民主主義の再生こそが必要とされている。