Shadi Hamid著「The Case for American Power」

The Case for American Power

Shadi Hamid著「The Case for American Power

アラブ系アメリカ人でありなおかつムスリムの若者として9/11同時多発テロ事件をきっかけとした「テロとの戦争」を経験し、いまもイスラエルによるガザでのジェノサイドとそれに主導的な役割を果たしているアメリカ政府の立場を批判しつつも、それでもアメリカの覇権は世界のために必要なのだと、ときに自分は間違っているのではないかと自問しつつ論じる本。

アメリカが掲げる自由や民主主義のお題目は嘘だらけではないか、自国の利益や大企業の都合のために各地で民主的に選ばれた政権を潰し、独裁政権を支えてきたし、世界中でアメリカだけが唯一ガザにおけるジェノサイドを止めることができるのにそれをしようともしないじゃないか、という議論に対し、著者はそれはそのとおりだと正面から認める。しかしいくら嘘であっても、偽善であっても、それをそう批判できるだけのお題目を掲げているのがアメリカという国であり、その点でウクライナや台湾への侵攻を止める内的な論理を持たないロシアや中国よりはマシであり、アメリカがそれらの国に対抗するほうが世界の平和と安定に寄与できるのではないか、というのが著者の基本的なスタンス。

本書の主張にはさまざまな意見があるとは思うけれど、こうした本がまさにいま、アメリカが自由や民主主義というお題目すら投げ捨て、自国の短絡的な利害どころか権力者の個人的な野望のためにその強大な武力を行使しはじめているタイミングで出版されたこと自体に意味がありそう。偽善を批判して善を求める事態ではすでになく、偽善か悪かの二択でせめて偽善に踏みとどまるよう働きかけなければいけない、アメリカが偽善を掲げてどれだけの暴力を正当化してきたか実感している著者が悩みながらそれを求めなくてはいけないほど状況が劣化している現代を象徴する本だと言える。