Wesley Lowery著「American Whitelash: A Changing Nation and the Cost of Progress」
2008年のバラック・オバマ当選から15年のあいだに起きた白人至上主義のバックラッシュについての本。前著「They Can’t Kill Us All: Ferguson, Baltimore, and a New Era in America’s Racial Justice Movement」ではオバマ政権の最後の二年間に起きた警察による何人もの黒人市民の殺害とそれに対抗して立ち上がったブラック・ライヴズ・マターの運動について扱ったジャーナリストが、それと並んでアメリカの現在の人種関係に大きな影響を与えている白人至上主義のバックラッシュの運動についてまとめている。
かつての白人至上主義運動はKKKやナチスなど目立つ団体によって組織されていたため、政府がその気になれば監視や摘発ができないことはなかったけれど、現在の白人至上主義運動はソフトな口ぶりで黒人や移民への差別的あるいは排除的な政策を主張する政治家や右派メディアパーソナリティ、さらには特に組織に所属しておらず一般には知られていないソーシャルメディアインフルエンサーやかれらに影響された無数の匿名のネットユーザたちによって担われていて、より危険が見えにくい。また、かつて白人至上主義は保守運動や復古運動だったが、現在では一部の白人至上主義者たちはアメリカでは(かれらによるとユダヤ人の陰謀により)人種融合や移民流入が進みすぎた結果、もはや保守や復古ではなく白人を守るための革命が必要とされると考えるようになっていて、さらに危険度は増している。ところがそうした思想に影響を受けた個人が銃乱射などを起こしても、かれらがKKKなどの白人至上主義団体の関係者でなければ個人的なメンタルヘルスの問題によって起きた事件のように扱われがち。本書はそうした事件の背景とともに、被害者や遺族、そして彼らのコミュニティが受けた影響について詳しく書かれている。とくに新しい発見はないけれど、前著と並んでいまのアメリカの人種関係について押さえておくには悪くない本。