Adia Harvey Wingfield著「Gray Areas: How the Way We Work Perpetuates Racism and What We Can Do to Fix It」

Gray Areas

Adia Harvey Wingfield著「Gray Areas: How the Way We Work Perpetuates Racism and What We Can Do to Fix It

職場における人種差別や性差別が違法とされて久しいなか、それでもさまざまな形でそれらの影響が残っていることを指摘し、対処法を訴える本。著者は職場におけるレイシズムを専門とする黒人女性社会学者。

この本、「だいばーしてぃ」業界界隈では評判がいい様子なんだけれど、わたし的には「それ、いまさら指摘することなの?」という内容が多いだけでなく、細かいところでちょっと首をかしげてしまう記述が。たとえば統計的差別と選好的差別の違いについて述べている部分で、統計的差別は正しい統計に基づくものであり選好的差別は正しくない統計的な思い込みに基づくものと説明しているけどそれはどちらも統計的差別だと思うし、ギグ・エコノミーで働く人について書かれた部分で運転や配送を行うUberやDoorDashと並んでAirBnBとかNetflixの名前が挙げられていて、まあAirBnBは少し関連してくなくもないけどNetflixに至ってはなんでそこで名前があがるのか理解不能。

あと、本書は7人の黒人労働者の経験に密着したケーススタディなのだけど、その7人に医者、大学教授、メジャーなハリウッド映画会社の幹部など普通の労働者とはかけ離れたエリートが多く含まれていて、ほぼ全員がホワイトカラー労働者なのも疑問。工場や店舗、飲食業などで働く普通の労働者が無視されているのは、著者自身がエリート大学に勤務する研究者であり大学教授である父親にキャリアを助けてもらった立場であることと関係していそう。それだけ能力の意欲もある労働者ですら黒人であるというだけでこういう困難を経験している、という指摘には意味があるけれど、職場におけるレイシズムについての本、というには弱い気がする。

とはいえ主にホワイトカラーの職場において人種差別や性差別が「職場の文化とのフィット」という形で温存されていたり、非公式なコネクション形成メカニズムから黒人や女性が排除されていることを指摘するなど、だいたいの内容は妥当。全職員にダイバーシティ訓練を強制的に受けさせることはその土台となるカルチャーがなければ白人の反感を買い黒人が気まずい思いをするだけだという議論は、そのダイバーシティ訓練を行うことで設けているだいばーしてぃ業界の限界をきちんと指摘していて良いと思う。でも大部分は、「ギグ・エコノミーは人種によって差別を受けることなく仕事を得ることができるけど、万が一のときの補償や昇進の機会がないし、客のレビューで差別を受けたりもするのでそんなに良くはないよ」とか「ブラック・ライヴズ・マター運動がさかんになった時に企業が一斉にダイバーシティを訴えたけど、それへの反動もあるよ」とか、うんそれとっくに知ってた、という話が多かった。