Ursula Pike著「An Indian Among los Indígenas: A Native Travel Memoir」

An Indian Among los Indígenas

Ursula Pike著「An Indian Among los Indígenas: A Native Travel Memoir

アメリカ・カリフォルニア州北部に先祖代々住んできた先住民部族出身の女性ライターが、若いころアメリカ合衆国ピースコー(平和部隊、日本で言うところの青年海外協力隊に相当)に参加してボリビアの先住民たちを支援する活動に関わった経験について綴った自叙伝。2021年に出版された本だけれどこのたびペーパーバック版が出たのを見かけたので読んだ。

ピースコーには多くの若者(ときに若くない人も)が平和的な国際貢献を志して参加するが、たとえばピースコーの国内版であるアメリコーと比べて理想主義的な白人が多い。それは奨学金の一種として地域のための活動に参加して公金から給料を得るアメリコーに比べ、ピースコーには恵まれた境遇にある自分たちアメリカ人が世界のかわいそうな人たちを支援する慈善活動というイメージがあることと無関係ではない。歴史的にアメリカ先住民たちは土地や主権を奪われ生活苦に追い込まれたうえで白人たちによるキリスト教的な慈善活動の対象とされてきたが、そうした背景を持つ先住民出身だからこそ自分はボリビアの先住民たちと対等な関係を結び助け合うことができると信じてボリビアに向かう。

しかし著者のこうした善意は、これまで多くの理想主義的な慈善家や宣教師、社会改革家たちの試みと同じく、植民地主義の歴史の重みのなかでは意味を持たない。自分はあなたと同じ先住民だと言ったところで周囲の人から見ればただのアメリカ人であり、好き好んでボリビアの田舎の集落にやってきて不便な生活をしながら慈善活動を行い、すぐにまたアメリカに帰っていく、これまで歴史上でも現代でもいくらでもいた人の一人でしかない。もちろん彼女が引っ張ってくるアメリカ政府の予算には感謝してるし、著者自身毎日のように「これにお金を出してくれ」という陳情を持ち込まれ、自分にはそこまでの権限も予算もないのにと困惑する。

さらに悪いことに、著者は現地の妻子ある男性と不倫に及んでしまい、実現する可能性は低かったもののかれをアメリカに連れ帰って結婚したい、とまで空想するほどに。周囲の人からかれの妻が妊娠中であることを聞き、関係を打ち切らなければと思いつつずるずる続けてしまい、ついには酔って大勢の目の前で堂々とキスしてしまう。当然のことながら妻にばれてしまい、修羅場に。あなたを裏切ったのは夫なんだからそっちの方をとっちめろよ、とは思うのだけれど、女性の側が責められるのは世界共通。しかし自分は女性だから、先住民だから、自分は植民者にはならない、かつて植民者の男性たちが先住民たちに対して行ったようなことにはならないと思っていた著者は、自分がかつての植民者や宣教師と同じ立場に置かれその役割を果たしてしまったことに気づく。

著者がボリビアに滞在したのは20年以上前の話で、時間がたったからこそ書けた本。それでもさすがに不倫相手の妻やその子どもたちがもしこれを読んだらどう思うのかというのは心配。最近のボリビアでは先住民出身の大統領が生まれたし、彼女が滞在した集落も下水道や電力などの整備が進み当時とはかなり変わっているという話だけど、その先住民出身の大統領がアメリカ政府にどれだけ叩かれたかを見ても分かる通り、植民地主義の構図はいまも変わらず続いている。