Stewart Home著「Fascist Yoga: Grifters, Occultists, White Supremacists and the New Order in Wellness」

Fascist Yoga

Stewart Home著「Fascist Yoga: Grifters, Occultists, White Supremacists and the New Order in Wellness

主にアメリカにおけるヨガ普及の歴史を紐解き、それが多くの白人アメリカ人の詐欺師、ナチズム信奉者や白人至上主義者、オカルト主義者らによって広められてきたことを明らかにする本。

2020年にはコロナウイルス・パンデミックやワクチンに対する陰謀論がヨガを日課としている白人たちの間で爆発的に広まり、男性的でハードな従来のQアノン陰謀論者たちと対比して女性的でソフトな「パステルQアノン」として知られるようになった。しかしアメリカにおいてヨガと極右政治はパンデミックをきっかけにたまたま接続されたのではなく、アメリカ白人のあいだでのヨガ需要の歴史の中にもともとあったことを本書は訴える。

そもそもなんで白人至上主義者やナチズム信奉者がインドの伝統であるヨガを(その本来のかたちではないとしても)広めるんだよ、と思うところだけれど、これはナチズムに影響を与えたアーリア人思想で説明がつく。アーリア人思想とは言語学でいうところの「インド=ヨーロッパ語族」という概念の誤解に基づくもので、もともとインドからヨーロッパにかけて最も高貴な人種であるアーリア人が存在していたが、その血を現代でも最も強く受け継いでいるのはドイツ人や北欧人であり、現在インドに住んでいる住民の多数を占める浅黒い肌の人たちは不純な人種との混血が進んだ結果だというもの。ユダヤ人や非白人の移民との混血による「純粋な白人種の消滅」を危惧する白人至上主義者たちは、インドこそがかつて偉大だった民族が堕落した結果であり繰り返してはいけない教訓だと考える。よって、かれらが考えるヨガが本来のインドのものと違ったとしても、正しいのはかれらが考える方であり、むしろインドのヨガの方が堕落しているとして自らを正当化する。

もちろんヨガに参加する大多数のアメリカ人たちはそのような思想の持ち主ではないし、むしろ本来のヨガのあり方をインドから学ぼうと考える人も多いけれど、アメリカにおけるヨガの歴史に白人至上主義や陰謀論が深く関わってきたことは事実。それに加え、自分こそがヨガの正しい伝道師だと言い張って一儲けしようとする詐欺師やオカルティストたちも群がり、きっかけ次第では陰謀論が広まる土壌は常にあった。

ヨガや東洋神秘主義、自然志向などが全体主義的なカルトや極右政治勢力に接続される傾向はアメリカに限った話でないことは、日本でも最近の選挙で話題に登った。ヨガそのものを危険視するのはもちろん違うけど、おかしな人が寄ってきて大きな影響力を持ってきたのも確かであり、自然や健康を重視しているから安全だとは思い込まない方が良さそう。