Stephen Kendrick & Paul Kendrick著「Nine Days: The Race to Save Martin Luther King Jr.’s Life and Win the 1960 Election」
1960年にニクソン副大統領とケネディ上院議員による大統領選挙の終盤、差別的な判事によって収監されたキング牧師の釈放をめぐって、両陣営のスタッフたちが南部白人層の支持と都市部の黒人層の支持を天秤にのせてそれぞれ葛藤した9日間の記録。キング牧師にとっては初の刑務所体験であり、収監中の暗殺が懸念されるなか、ケネディ候補とその弟のロバートがかけた2本の電話がかれの当選をもたらした、という定説の裏話いろいろ。9日目のキング牧師の釈放のうらにケネディ兄弟の働きかけがあった、という噂は黒人メディアにより全国に広まり、ケネディ当選の一因となったとされるほか(まあ多分テキサスとイリノイの不正がなければ本来ニクソンが勝っていたんだろうけど)、収監を経たキング牧師は公民権運動の指導者としての立場をさらに盤石にし、そして南部白人が大挙して民主党から共和党に移動するなど、その後のさまざまな動きに大きな影響を与えた。キング牧師とシットイン運動にかれを呼び込んだ学生たちの関係や、両選挙陣営内での黒人スタッフの動きなど、興味深い内容もたくさん。
MLBにおける初の黒人選手としてドジャースでプレイしたジャッキー・ロビンソンがニクソンのために応援演説をしたけど結局裏切られて次にニクソンが大統領選挙に出馬した(当選した)1968年には民主党のハンフリーを支持した話とかも。黒人学生たちによるレストラン(ランチカウンター)でのシットイン運動は1960年1月にノースカロライナ州ではじまるんだけど、キング牧師より若い人たちの運動で、キング牧師は当初距離を取っていたらしい。きちんとしたスーツやドレスを着込んで白人専用のレストランに入り、あくまで丁寧な態度で、食事をしようとする。店を出ていけと言われるけど、そのまま居座り、注文しようとする。警察や白人暴徒が現れて暴力をふるわれたり逮捕されたりするけど、一貫して非暴力で毅然と抵抗。それを報道で知る全国の白人たちの良心に訴える作戦。キング牧師は1955-56年のモンゴメリ市バス・ボイコットで国際的に有名だったので、学生たちはシットインに参加するよう勧誘してくる。キング牧師ははじめ、逮捕・収監されることにビビってなんとか回避しようとするけれども、自分より若い学生たちの行動の正しさと規律に感心して参加する。キング牧師のような使命を帯びたリーダーのような人も、やっぱり怖くて逃げ出したいときもあったんだ、と思うと、勇気づけられる。シットイン運動のリーダーとしてのコメントを求めるメディアに対して、自分はフォロワーであってこの運動のリーダーは学生たちだ、と繰り返しているのもカッコいい。