Jamie Raskin著「Unthinkable: Trauma, Truth, and the Trials of American Democracy」

Unthinkable

Jamie Raskin著「Unthinkable: Trauma, Truth, and the Trials of American Democracy

2021年1月に起きた議事堂占拠事件の責任を問う、トランプに対する二度目の弾劾裁判において筆頭検察官の役割を果たしたジェイミー・ラスキン下院議員の本。ラスキン議員は1週間前に息子を自殺によって失い失意の底にいるなか、責任感から議会に出席し、占拠事件を経験した。この本は高い倫理観を持ちつつも(子どもの頃から戦争について知って戦争をモチーフにした大好きなテレビゲームを辞めたりヴィーガンになったりして、自殺した時点では政治哲学を学び「これからの『正義』の話をしよう」で有名なマイケル・サンデル教授の「正義」のクラスのアシスタントをしていた)鬱に苦しみ、コロナと黒人への国家による暴力とトランプの悪あがきに翻弄された2020年の終わりに自殺してしまった息子の記憶と、ラスキン議員自身が自分の命とアメリカの民主主義への危機を痛感した議事堂占拠事件とトランプに対する弾劾裁判という2つのトラウマと、議員本人や家族や民主・共和両党の政治家たちがそれを乗り越えようとするストーリーが語られる。

トランプが合法的に選挙結果を覆そうとする試みは、全国で起こされた数十の裁判が全て棄却されたことによって潰えたけれど、違法にそれを行える可能性はあった。トランプが各州の議員団や知事や選挙管理者やペンス副大統領に圧力をかけて一部の州の選挙結果を破棄させようとしたのは、その結果仮にトランプが多数の票を取らなくても、バイデンの獲得票を過半数割れまで追い込めば、憲法修正12条の規定により下院の議員たちが州ごとに1票を投票するかたちで大統領を選出することになり、トランプが当選する可能性が出てきたからだ。投票日のまえから選挙は不正だと言い続けるトランプを見て、政治家になるまえは憲法学者だったラスキン議員はこの可能性に気づき、憲法修正12条防衛基金を設置してとくに重要になりそうな選挙区の民主党候補を支援したが、この危険を潰すことはできなかった。そして選挙のあと、トランプは結果を認めずに、多数の裁判を起こす裏で各方面に対して違法に選挙結果を破棄させるよう圧力をかけ、最終的にその全てが失敗すると、暴力的に選挙結果の認定を阻止してペンス副大統領を翻意させるか排除するための暴動を起こさせた。

この本でラスキン議員は弾劾裁判のそれぞれの段階において下院民主党のなかでどういう議論が交わされ、どのような法理論や裁判戦略を取ったのかを事細かに説明すると同時に、その過程において息子だったら何と言っただろうか、という亡くなった息子との対話を続ける。息子の死を受けて生きる希望を失いかけながら、息子が求めたであろうより公正な民主主義を守るために戦った父親、政治家、憲法学者としてのラスキン議員の魂の記録であるとともに、2021年1月に何が起こったのか議事堂の中で暴徒が挙げる大声や破壊の物音を聞いていた当事者による証言の本。