Sönke Iwersen & Michael Verfürden著「The Tesla Files: A Whistleblower, a Leak, a Fight for Truth: the Inside Story of Musk’s Empire」
2023年にテスラの元従業員から100GBを超える内部データを入手し報道してきたドイツのジャーナリストらによる本。
本来ならごく限られた担当者にしか与えられるべきでないデータへのアクセス権が社員全員にオープンになっていたというテクノロジー企業としてありえないミスによって流出したデータだけど、それが本物であると確認するところからはじまり(なにしろ相手はイーロンなので、わざとよくできた偽物のデータをジャーナリストに流出させて罠に嵌めようとすることもありえなくない)、テスラによる工場内や路上での事故の隠蔽や安全性を無視した決定などが次々と明らかにされる。ジャーナリストとしてデータがリークされたからと鵜呑みにすることはもちろんできず、たとえばデータにあった事故を経験したテスラ所有者に取材するなどしてきちんと裏取りできた情報だけでもテスラの存続に疑問が生じるほどさまざまな問題が明らかにされた。
そうして苦労して裏取りをして報道してきた内容をまとめようと本書の出版計画は進んだのだけれど、その最終段階に差し掛かった時期にイーロン・マスクはアメリカの大統領選、そしてホワイトハウスへの関与を強める。安全基準を蔑ろにし労働法やその他の法律も無視し続けるマスクに対して規制当局の態度は厳しくなり、そろそろマスクの快進撃も終わりじゃね?と思っていたら、あっという間にキングメーカーとしてトランプを当選させ、その就任後はDOGEを実質的に率いて政府の規制当局を解体、担当者を大勢解雇するなど手を付けられない状態に。まあその後、関税をめぐってトランプと対立したり、気候変動対策の打ち切りによりテスラの主な収入源である炭素排出権の価値が暴落したりといろいろあるけど、出版を計画していた時点では予測もしなかった面倒な事態になっているのは確か。もっと早いうちに潰しておくべきだったでしょこれ。