Sandy Hudson著「Defund: Black Lives, Policing, and Safety for All」
トロント在住でカナダのブラック・ライヴズ・マター運動の中心人物の一人である著者による、刑事司法制度廃止論についての本。
ブラック・ライヴズ・マター運動は2020年に全世界に広まったあと、アメリカでは2021年以降に強烈なバックラッシュを引き起こし、とくに活動家たちが警察予算削減や監獄廃止を声高に主張しているものだから実際にはそんな主張をしていないリベラルや民主党の政治家たちまでもがそうしたスローガンと結びつけられ選挙で不利になっている、として、リベラルや民主党のなかから活動家たちに対してメッセージを変更するよう圧力がかかった。カナダでも状況は似たようなものだが、著者は警察予算削減や監獄廃止について疑問を抱いている一般市民との対話を通して警察が実際には暴力犯罪を抑止できておらず加害者の責任追及もうまくいっていないことを指摘するなどして、どうして多くの人たちが警察や刑事司法制度に頼らずにコミュニティの問題を解決する仕組みを求めているのか説得力をもって説明する。
もちろん本書には、Angela Y. Davis, Gina Dent, Erica R. Meiners & Beth E. Richie著「Abolition. Feminism. Now.」をはじめとする多数の廃止主義の本と同じく、警察が植民地支配や逃亡奴隷の取り締まり、労働運動や市民運動の弾圧のために生まれた組織であり、いまでも人々の安全や生命を守るよりは権力者と秩序を守るためのものであることなども書かれているが、わたしが特に良いと思ったのは彼女が廃止主義を共有しない人たちに対してどのように語っているか綴った部分。たとえば警察に対する批判が高まった2020年、警察が弱体化したら性暴力やドメスティック・バイオレンスに苦しむ女性たちはどうするのか、といった意見が聞かれたが、年々警察予算は拡大してきたにもかかわらずそれらの犯罪は減っていないし、現実に被害を受けた人たちの大部分は警察に通報もせず、通報したところで加害者が罪に問われることもめったにないという事実を共有することで、警察予算を減らしてその分を別のどういうプログラムに使えば本当に問題が解決できるか、という方向に議論を進める。「Abolition. Feminism. Now.」ほか廃止主義フェミニズムについての良い本はほかにもあるけど、本書は中でも入門書として廃止主義についてあまり考えたことがなく不安を感じている人におすすめできるかもしれない。