Angela Y. Davis, Gina Dent, Erica R. Meiners & Beth E. Richie著「Abolition. Feminism. Now.」

Abolition. Feminism. Now.

Angela Y. Davis, Gina Dent, Erica R. Meiners & Beth E. Richie著「Abolition. Feminism. Now.

刑務所廃止を目指して1998年に設立されたCritical Resistanceと、国家権力に頼らずに性暴力やドメスティックバイオレンスなどの解決を目指すために2000年に設立されたINCITE! Women of Color Against Violence(のちにINCITE! Women, Gender Non-Conforming, and Trans people of Color Against Violence)など、個人間の暴力とともに国家の暴力や制度的暴力にも同時に抵抗する運動を続けてきた著者らによる、アボリション(刑務所廃止)・フェミニズムの短い入門本。アボリション・フェミニズムは、現代の刑務所や警察は過去の奴隷制度や逃亡奴隷パトロールが変形したものだとして、自らを奴隷解放運動(アボリショニズム)の系譜に位置づける立場で、女性に対する暴力を国家権力による取り締まりや処罰によって解決しようとするカーセラル・フェミニズムの対局。ちなみに売買春やポルノに反対するフェミニストたちも自分たちをアボリショニスト(売買春廃止派)と呼んでいるけれど、かれらはカーセラル・フェミニズムの一部なのでアボリショニスト・フェミニズムとは関係ない(アボリショニスト・フェミニズムは性労働者を支持しているし、多くの性労働者がアボリショニスト・フェミニズムの立場で運動に関わっている)。

本書は「アボリション」「フェミニズム」「ナウ(今)」の3章から成り立っていて、最初の2章で反刑務所・反警察の抵抗運動にフェミニズムが不可欠な理由、フェミニズムにアボリショニズムが必要な理由を説明したあと、第3章ではシカゴを例にとって過去にあったさまざまなアボリション・フェミニズムの運動の歴史を紹介しつつ、それが現代のブラック・ライヴズ・マター運動や社会における刑務所や警察の役割を減らそうとするその他さまざまな運動にどのように受け継がれているか解説する。過去の運動の多くは、これといった成果が残せないまま解散したり、内部のゴタゴタで空中分解したり、あるいは運動を引っ張っていた少数のリーダーが引退するとともに運動自体が終わってしまったりして、それだけみれば敗北と失敗の歴史にみえるかもしれない。しかしかれらが続けた会話はそれぞれの運動体が無くなったあとも人々によって続けられ、それがいまの警察予算削減運動などに受け継がれている。

わたし自身同じ運動にいる立場なので(INCITE!ベイエリア支部創設に関わったり、INCITE!が出した本に寄稿したり、いろいろ繋がりがある)書かれている内容はほとんど知っていることだったのだけれど、これまでそういう運動に関わって来なかった人、とくにBLM運動で最近そういう会話に触れるようになった人にはお勧めの本。

ただこれはINCITE!関係の人に会うたびに言ってるけど、創始者の一人が自称チェロキーの白人女性だったという事実や、それが暴露された当初INCITE!が彼女を無理やり擁護した件にはちゃんと向き合わないと、INCITE!は信頼を回復できないと思うよ… この件、この本でも「最近、創始者の先住民アイデンティティについての調査が話題になった」という一文でしか取り上げられておらず、創始者が間違ったことをしていたという事実認定もなければ、彼女に対する批判は「最近」起きたものではなくかなり以前から先住民フェミニストたちによってなされていたことも無視している記述で、事情を知らなければなにも分からないまま読み飛ばしてしまう書き方。失敗しても将来に繋がることがあるというなら、失敗を失敗としてちゃんと記述する必要があると思うんだけど。