Richard Moss著「Shareware Heroes: The renegades who redefined gaming at the dawn of the internet」

Shareware Heroes

Richard Moss著「Shareware Heroes: The renegades who redefined gaming at the dawn of the internet

家庭用のパーソナルコンピュータが登場した1980年代からインターネットへの接続が一般化した1990年代から2000年代にかけて人気を博したシェアウェア文化の歴史について記した本。

シェアウェアはその言葉のとおり、一般ユーザがほかのユーザとシェアすることを前提として無償で配布され、気に入ったら代金を支払うよう要請するソフトウェア流通の形態。完全に無償で提供されるフリーウェアと異なりシェアウェアは使用者にライセンス料の支払いや寄付を要求するものの、当初は支払いをしなくても制限なく利用できるものが多かった。インターネットもなく店舗でパッケージしたソフトウェアを売るハードルが高かった時代、特にゲームを中心として、シェアウェアはユーザからユーザにコピーされたり、各地で設置されたパソコン通信で共有されることで広まった。

まだコンピュータの性能も低く記憶容量も少なかった当時、多くのゲームは個人で、あるいは小規模なチームで作製されていた。シェアウェアは趣味でゲームを作製するそうした個人や小規模なチームのお小遣い稼ぎになる程度の収入はもたらしたが、機材にかかった費用などを引けばほとんどの製作者は儲からなかった。その一方で「自由にシェアしてください」という呼びかけに便乗して多数のシェアウェアをパッケージして売り出す業者が登場し、シェアウェアについてよく知らない一般消費者たちはソフトウェアの代金と思ってそれらにお金を払う一方、製作者には消費者からの質問や苦情ばかりが押し付けられる。

シェアウェアの作製を単なる趣味ではなく仕事として成り立たせるためには、実際に使っているユーザからの支払いを増やす必要があった。さまざまなモデルが試行錯誤された結果、人気のゲームの最初の三分の一くらいのステージを無償で公開し、残りを遊びたい人はライセンス料金を支払ってください、という方式が一般化する。しかし1990年代に入ってコンピュータの性能が一気に向上をはじめると、ゲーム開発は複雑化し作製チームが大規模になるとともに、より収益が重視され、ゲームの序盤を自由に遊べるシェアウェアというよりは機能や試用期間が限られた体験版・デモ版が一般化する。そしてさらなる収益を狙った展開は、現在のゲーム業界を席巻している、基本プレイが無料だけれどことあるごとに課金しようとするビジネスモデルに受け継がれる。

わたし自身、1990年代に大学のコンピュータ室でともだちと一緒に本書で言及されているゲームをした思い出があり、とても懐かしいとともに、そういえばあれ、また遊びたいなと思いながら読んだ。そういえば当時、学生自治会がオフィスの備品のコンピュータになぜか実務には不要なサウンドカードを追加購入したと思ったら、Doomとかやるのが目的だったと分かってくだらない騒ぎになった記憶が… 当時すごい不正みたいな話になってたけど、いま思えばまじどうでもいいわ。

あと本書では史上初のクィアなテーマのゲームと思われている「Caper in the Castro」についても紹介されていて、すごく興味深かった。1989年に発表されたこのゲームは、レズビアンの探偵が行方不明になった友人のドラァグクィーンを探すミステリーアドベンチャーで、作者は当時レズビアンとして生きていた現在ノンバイナリー自認の人。チャリティウェアというシェアウェアの一種として配布されていて、遊んだ人は作者に送金するのではなくHIV/AIDS関連の団体に寄付するよう求めている。せっかくだから、LGBTの歴史を学ぶためにエミュレータで動かしてゲーム配信しようと計画中(HIV/AIDS団体にも寄付するし、視聴者にも寄付を呼びかける)。